マイナンバー制度導入で需要増…「個人情報管理士」育成事業の仕掛け方

デイリーニュースオンライン

MCEA代表取締役の齋藤光仁氏
MCEA代表取締役の齋藤光仁氏

 すでに終身雇用の時代でもなく、また過酷な労働環境ないわゆる「ブラック企業」も問題視される昨今、組織に属さず個人事業主として働くフリーランスの存在も珍しくはなくなった。

 しかし、自由さと引き換えに営業、事務などもすべて独力で行わなければならず、また仕事量、収入の不安定さというデメリットも存在する。IT業界において、そうしたフリーランスのデメリットをサポートすべく立ち上げられたのが、首都圏コンピュータ技術者株式会社(MCEA)だ。

 MCEAの起業は1989年、15名のIT系エンジニアたちによる組合という形でスタートした。当時はまだ業務の現場に大型コンピュータ・システムが入り始めた時期で、いわばIT業界ではベンチャーどころか老舗といった歴史も持つ。しかし、その事業内容は一貫して「フリーエンジニアの支援」として変わっていない。

 MCEA営業部統括マネージャー、高山典久氏は、MCEAの活動についてこう語る。

「組合設立時にはすでにIT業界も存在していましたが、当然のように今ほどの規模でもありませんでした。フリーの技術者として活動する人もおり、その存在価値もあったのですが、認知度も社会的地位も低かったんです。またフリーだと当然ながら、受けた仕事をこなしつつ、その案件が終わった後の営業も同時にしなければいけませんでしたが、やはり個人では難しい。そこでフリーランスの技術者を支援しようと首都圏コンピュータ技術者協同組合が結成されたんです」

 組合加盟者がどんどん増えてきた2007年には、現在のMCEAに組織変革し株式会社化。また、2014年10月からは、契約技術者に独自の基準を設け、一定基準をクリアしたエンジニアには「プロ認証」を与えるというフリーエンジニアのプラットフォーム事業「PE-BANK」も立ち上げられた。

 MCEA代表取締役 齋藤光仁氏に、「PE-BANK」事業の持つ意義を伺った。

「MCEAに登録しているフリーエンジニアさんたちで、実力が確かな方々を「ブランド化」したかったんです。スポーツで例えれば、ノンプロ、会社に属して社会人野球をやっている方と、プロ野球選手の差とでも言いましょうか」

 フリーランスの難しさには、いわゆる大手企業への営業も門戸が狭められる点もある。いかに高い技術を持っていても、個人事業主が大手企業と直接契約するまでには至らない場合が多いが、その点でもPE-BANKの「ブランド力」は有効に作用する。IT業界では老舗であり、また実績も多いMCEAが運営するPE-BANKであれば大手企業からの受注も多く、そして登録するプロ技術者たちの仕事もPE-BANKのブランド力を押し上げる力となるのだ。

 高い技術を持つフリーエンジニアとしての、いわば「肩書き」となるPE-BANKのプロ契約。その資格内容やチェックされる部分、必要とされる能力にはどんなものがあるのだろうか。

「独自の厳格な基準を設けていて、この人なら通用するだろう、という人とはプロ契約を交わします。ただし、どのような基準で……となると、そこは企業秘密ということにしておきたいですね。登録すれば全員がプロになれるワケではありません。過去の実績も見ますし、技術者としてのスキルはもちろんヒューマンスキルもある。例えば面接にサンダルを履いて来るような方も稀にいらっしゃるのですが、そういった部分も判断基準になります。クライアントに自信を持って紹介できるのがPE-BANKのプロエンジニアですから、社会常識も当然ながら必要ですよね。プロ契約された方ならば、どこへでも紹介できるし、その実力も保証するということです」(斎藤代表)

 こうしてプロ契約を果たしたエンジニアはPE-BANKを通じてクライアントから業務を受注するが、「当社は派遣業ではないんですよ」と斎藤代表。一般的な派遣業務の場合、派遣業者が受注した業務をフリーランスへ再委託する、いわゆる「商流」という形式を取るが、PE-BANKの場合はクライアント、MCEA、プロエンジニアの3者による「ジョイントベンチャー(共同受注)」という形式を取る。案件作業中は福利厚生や請求書作成などの事務業務、また案件終了後のバックアップなどを行うことで、フリーランスであっても安定感を持ちつつ働くことができる部分も特徴だ。

マイナンバー制度施行後をにらんだ取り組み

 現在はプロエンジニアも2000名を超えたというPE-BANKだが、一般社団法人 日本個人情報管理協会(JAPiCO)と協力しつつ、新たに注力し始めたのが「マイナンバー制度」施行後をにらんだ取り組みだ。

 2015年10月より、国民全員に通知され運用が開始される「マイナンバー制度」とは、いわば国民ひとりひとりに「背番号」を付け様々な個人情報を一元管理するシステムだ。その番号がわかれば、税金や社会保障の状況などがわかってしまうため、個人情報保護の観点からその運用も厳しく管理されることになる。

「公官庁系、税金や保険に関わる業務であればシステムは大きく変わりますし、民間企業でも給与や社会保障等で取り扱うことになるので、マイナンバー制度とその保護、運用に関しての知識が必要になります。システムを構築する上で、その部分をエンジニアが理解しているかどうかは非常に大きな違いになります」(JAPiCO事業統括部長 増子由紀氏)

「具体的な例としては、大きな企業さんだと複数のグループ企業があり、グループ間で社員の情報が閲覧できたりする。現状ではそれは違法ではありませんが、マイナンバー制度が施行された瞬間から、それらの情報は見てはいけなくなるし、見せられないようにしないといけない。誰に何を見せていいのかダメなのか、今年10月からは中小企業の事務員さんでも、それらの知識が求められてしまうんです」(高山氏)

 JAPiCOでは、企業あるいは個人に対してマイナンバー運用の正しい知識を持つことを認証する「個人情報管理士」の育成事業を行っている。そしてPE-BANKも積極的に協力しあい、プロエンジニアたちにこの個人情報管理士資格の取得を推奨している。

 PE-BANK登録のプロエンジニアの中で、この個人情報管理士資格も取得しているのは2015年5月の段階で約150名ほど。そして今後、この資格を持つエンジニアの需要は増していくだろう、と予想する。

「今でもマイナンバー制度についてのセミナーを開催すると人が大勢集まるような状況で、まだ企業さんの方でもどう対応していいのか、よくわかっていない。ましてシステム変更など実際に対応するとなると、これから問題化してくるのだと思います。すでになんらかの対応をしている企業は、全体の2割程度ではないでしょうか」(斎藤代表)

「JAPiCOさんと共同して育成に取り組むことで、今後はマイナンバーの取り扱いに対して意識の高いエンジニアも増えてくるでしょう。PE-BANKのエンジニアは様々な企業の開発フェーズに入って行きますが、いわゆるシステムの「上流」に関わることが多いんです。そこでマイナンバーに対する知識がしっかりとしていれば、個人情報の取扱いミスも未然に防げるのでは」(高山氏)

 JAPiCOの個人情報管理士資格を取得するには、2日間のセミナー受講と1時間ほどの試験が必要となる。合格率は約85%ほどだが何度でも再試験を受けられるため、プロエンジニア認定を受けるレベルの技術者であれば、最終的にはほぼ取得はできる難易度とのこと。

 ただし、現在はこの資格自体の認知度がまだ低い状況でもあり、今後はマイナンバー制施行に向けてより広く周知させる広報活動も進めていくという。

 大規模なシステム変革を迫られる今年10月は、フリーエンジニアにとっては久々の「バブル」到来となる可能性もある。いち早く「個人情報管理士」と「プロエンジニア」の肩書を取得しておけば、フリーランスの技術者であっても活躍の場は広くなることだろう。

(取材・文/佐藤圭亮)

齋藤光仁(さいとうみつひと)
1953年、青森県生まれ。78年、東京佐川急便に入社し、94年には佐川物流サービス業務部長・佐川流通センター長に、98年には佐川急便執行役員情報システム部長兼佐川コンピューター・システム(現SGシステム)代表取締役に就任。07年に首都圏コンピュータ技術者に入社し、10年には専務取締役、11年には代表取締役社長へと就任する。 首都圏コンピュータ技術者株式会社HP
「マイナンバー制度導入で需要増…「個人情報管理士」育成事業の仕掛け方」のページです。デイリーニュースオンラインは、ベンチャービジネス連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧