富士山の環境悪化が深刻に…「富士登山鉄道」計画でもたらされる踏圧被害とは?

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懸念される富士山の環境悪化
懸念される富士山の環境悪化

 2013年に世界遺産に登録された富士山。世界遺産になったことで静岡県静岡市の三保ノ松原や山梨県の富士五湖などが観光地としてクローズアップされている。それだけに観光客も増えているのか? といえば、決して楽観視できる状況にはない。

 観光需要の指針となるのは環境省の登山者数統計で、登山者は2005年に年間200万人を突破し、2008年には年間300万人を超えた。世界遺産認定で登山者数はさらに増えると期待されたが、その後は伸び悩み、近年は横ばいが続いている。

 富士登山者数が伸び悩んでいる理由はいくつかある。そのひとつは、2014年に多数の死者を出した長野県・岐阜県の御嶽山の噴火による死亡事故だろう。これが登山人気にブレーキをかけることになった。

 登山者数が減少すれば、富士山の人気にも陰りが出る。ひいては、地元経済界も停滞してしまうだろう。そうした懸念から、地元の地方自治体は経済団体や企業と連携して施策を講じるなど、富士山への観光客誘致に力を入れている。

「山梨県の大月駅から富士山の玄関口になっている富士山駅や河口湖駅までを結んでいる富士急行は、東京・新宿駅から直通列車を運行したり、自社線でフジサン特急や富士登山電車を運行するなど、力を入れています。やはり地元にとって富士山は期待の大きな観光資源なのでしょう」と言うのは鉄道雑誌編集者だ。

 富士急行は2011年に富士吉田駅を富士山駅に改称。富士山を全面的にPRして観光客誘致に傾注している。

観光客増加で起こる環境悪化

 その一方で、懸念されているのが、富士山の環境悪化問題だ。富士山は日本人の原風景ともいわれるほど、古くから日本人に愛されてきた。それにも関わらず、長らく富士山にはたくさんのゴミが廃棄されていた。それが長らく世界遺産に認定されない理由とされてきた。

 ゴミ問題は登山者のマナーによるところが大きい。登山者が増えればポイ捨てする不心得者も増える。ゴミ問題は地元にとって頭の痛い話だが、観光客増加で起こる環境悪化はそれだけではない。

 富士山は5合目まで自動車でもアクセスすることができ、登山者が増えれば自然と富士山を走る自動車も増加する。排気ガスによる富士山の環境汚染は深刻さを増しており、行政も対応に追われている。

 排気ガス問題を解消しようと打ち出されたのが、富士登山鉄道の建設だった。富士登山鉄道の建設計画は富士五湖一帯が保養地として注目された1960年代から存在していたが、世界遺産になったことで再検討されるようになった。いまだ計画段階の状態だが、富士登山鉄道が完成すれば5合目まで鉄道でアクセスできるようになり、自動車の進入は制限される。当然、排気ガス対策にもなる。

「登山大国・スイスでは登山鉄道は一般的で登山者のみならず観光資源としても活用されています。それだけに富士登山鉄道の建設は鉄道ファンだけではなく、観光客にとっても夢の路線ではないでしょうか?」(前出・鉄道雑誌編集者)

 しかし、それでも解決できない問題はある。それが、富士山の踏圧被害だ。地元の環境団体スタッフはこう話す。

「富士山やその周辺は自然が豊富ですが、特に森林は富士山の魅力のひとつです。鉄道建設などでCO2対策を講じることはいいことだと思いますが、観光客が増えすぎて、たくさんの人が登山道を歩くと踏圧によって木々の根元が痛みます。これらは踏圧被害と呼ぶのですが、踏圧被害は20~30年といった長年の蓄積で起きます。近年、富士登山者が増加したことで、富士山周辺の木々をどうやって踏圧被害から守るのか? といった検討が始まっていますが、今のところ“観光客をたくさん呼び込まない”という対策しかないのが現状です」

 登山者や観光客が来なければ経済的に地元は疲弊してしまい、観光客が来るようになれば環境破壊で肝心の富士山が死滅する。経済と環境を両立させるのは、一筋縄ではいかないようだ。

(取材・文/小川裕夫)

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