【北朝鮮】高校生「爆薬密輸」で逮捕…アナ—キすぎる青少年犯罪事情

デイリーニュースオンライン

中朝国境をパトロールする北朝鮮兵士(写真はイメージです)
中朝国境をパトロールする北朝鮮兵士(写真はイメージです)

 北朝鮮の青少年の間で麻薬が蔓延していることは、本連載でも継続的にレポートしている。背景には1990年代の大飢饉がある。学校に通えない子ども達が急激に増大し、彼らが「コチェビ」と呼ばれるストリートチルドレンとなって社会不安をもたらしたことがあるが、学校に通う高校生たちも彼らに負けず劣らず荒れているのだ。たとえば、金正日時代には高校生3人組が中国から爆薬を密輸する事件が起きている。

 事件の概要はこうだ。中朝国境に隣接する高等中学校(日本の高校にあたる)に通う高校生3人が、北朝鮮側の国境警備隊員とグルになって中国から爆薬10kgを密輸しようとした。手口はいたって稚拙で、爆薬を詰め込んだカバンをハンドキャリーで持ち込もうとしただけである。しかし、町の入口で検問を行っていた監視員により、あえなく逮捕されてしまった。

需要と供給を知り尽くした「学生市場」の存在

 この情報が町中に広まり、殺伐とした空気が漂うなか、なぜか今度は「彼らは、金正日の専用駅に通じる鉄橋を爆破しようとしていた」というウワサが流れた。これに最も敏感に反応したのが、現地の朝鮮労働党の関係者たちだった。金正日専用駅の鉄橋の爆破を目論んでいたとするなら、北朝鮮当局にすれば明らかな「反政府テロ」に相当するからだ。 

 労働党関係者にとって、最も大切なことは「権威を守ること」。つまり、彼らにとっては金日成、金正日、金正恩の権威を守ることが最大の使命であり、そこで失敗をすれば前途は失われる。地域の党幹部たちは、必死になって関係者を総動員し、金日成の銅像をはじめ金日成にまつわる関係施設の警備を強化したという。

 しかし、爆薬密輸を目論んだ3人は平凡な労働者の息子で、読書好きの文学青年たちだった。普段の素行もとくに問題はなかったという。事件に政治的背景はなく、摘発した司法当局は当惑したというが、彼らが犯行に及んだ背景には北朝鮮社会が抱える特有の事情があった。

 北朝鮮では社会主義経済が崩壊し、それぞれの個人が何らかの商売をしないと生活がなりたたなくなっている。しかし、商売をするといっても何でも自由にできるわけではなく、様々な制約がある。そこで、比較的自由に動ける学生達が「苦しい家計」を助けるため商売に励むのだ。

 最初は同年代の友人の間から始まった小規模なモノの売買が、徐々に学校全体に広まり、さらに地域の学校ネットワークを基盤する「学生市場」として拡大するのである。

 そうした学生たちは、親の商売を手伝っていることもあり、モノの仕入れから売り方、利益の出し方など、基本的なノウハウを身につけている。さらに、不特定多数の青少年が集まる「学校」という名の市場を通じて、どのような商品に需要があり、何が売れるのかという需要動向を探ることができる。

 ここに、「小遣い稼ぎ」を目的とした富裕層や中産層の子弟が加わって「学生市場」の幅はさらに広がる。しかし、小遣い稼ぎが目的の学生たちは、どうしても安易な手段に走りやすく、犯罪に近い商売に手を染めてしまうのである。

 爆薬密輸容疑で逮捕された高校生3人は、富裕層ではなかったが、少し世間知らずで「小遣い稼ぎ」のつもりで犯罪に手を染めたようだ。

 しかし小遣い稼ぎで「爆薬を密輸」するとは、北朝鮮のアナーキーな一面を体現しているようで、なんとなく感心してしまう。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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