FIFA捜査で威力発揮の司法取引は日本検察のお手本となるか

デイリーニュースオンライン

辞任に追い込まれたブラッター前・FIFA会長(写真右)
辞任に追い込まれたブラッター前・FIFA会長(写真右)

 国際サッカー連盟(FIFA)汚職の摘発が、底なしの広がりを見せ、5選されたゼップ・ブラッター会長は、わずか4日で辞意を表明したが、米司法当局を中心とする世界の捜査機関は、追及の手を緩めない。

 要は、それだけの情報が米司法当局にもたらされている。協力者は、FIFA傘下の北中米カリブ海サッカー連盟事務総長だったチャールズ・ブレザー氏(70)である。

 移動は常にプライベートジェットで、ニューヨークに高級マンションを幾つも所有するブレザー氏に目をつけた米内国歳入庁が税務調査。不正に得た手数料が2000万ドル(約25億円)であることを突き止め、徹底追及したところ、「逮捕を逃れるための司法取引」に応じた。

「逮捕しないし、あなたの罪は軽くする」

 FIFAは会長以下25名の理事で、開催地、放映権、商標権など莫大な利権を差配する組織。公務員でないことから贈賄工作が絶えず、歴代のFIFA幹部は、それを排除することなく、むしろみんなが受け取ることで、秘密を共有、カネまみれ組織となっていった。

 それだけに結束は固いが、ひとたび敗れるともろい。「ブレザー氏の暴露」は、全理事と各国の組織に及び、収拾がつかない。「逮捕しないし、あなたの罪は軽くする」のひとことが持つ力を実証した。

 事件の行方はこれからだが、日本の検察当局が、「特捜崩壊」の危機のなかで、まさに導入を図って再生を期待しているのが、この司法取引である。

 無理を重ねた東京地検特捜部の小沢一郎・民主党元代表事件、冤罪だった大阪地検特捜部の村木厚子・元厚労省局長事件によって、東京と大阪に置かれた特捜部の権威と信用は失墜し、「特捜改革」が進行中だ。

 そのなかで、制度化されたのが取り調べの録音録画(可視化)。自白の強要につながる供述調書頼りの取り調べを改め、証拠重視の捜査に切り替えた。

 だが、一方で、密室での取り決めや金銭授受が一般の贈収賄事件は、証拠が残らず、摘発が難しくなる。現に、「検察改革」の最中にある特捜部は、政治資金規正法や公職選挙法を利用した「政界監視」に切り替えており、それでも摘発に至らないのが現状だ。

 そんな「吠えない番犬」に、武器を与えようと、法務省法制審議会で論議が重ねられ、昨年7月、司法取引の導入が決まった。今年3月には、刑事関連法案の改正案として閣議決定、今国会で審議入りしている。

 虚偽供述による冤罪など、司法取引にも問題はあるが、検察による政官界の監視機能が失われたのは事実。FIFA事件の広がりは、改めて司法取引の持つ効果を伝えたが、一方で、検察との戦いに消耗した経験のある政治家には、新たな恐怖を植え付けているという。

伊藤博敏
ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある
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