【新国立競技場】設計見直しに立ちふさがる“ドン・森喜朗”の壁

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費用も工期も折り合いがつきそうもないザハ案
費用も工期も折り合いがつきそうもないザハ案

 森喜朗元首相が存在感を増している。首相在任中よりも、派閥領袖時代よりも、引退した今の方が、発言力が増し、その一挙手一投足に注目が集まっている。当然だろう。

 代議士になってから、利権に縁のなさそうな文教族の道を歩み、コツコツと実績を積み重ね、文部科学省に地盤を築いた。

 スポーツに力を入れたのは、早稲田大学ラグビー部の出身で、ラグビーを介してアマチュアスポーツ全般に理解があるから。

 そうした経験と実績が、2019年のラグビーワールド杯の招致につながり、弾みをつけるように2020年東京オリンピック招致合戦にも汗をかき、その功績で東京五輪組織委員会会長に就任した。

すでにハッキリしているザハ案の欠陥

 森氏の人心掌握術には定評がある。抜群の記憶力と座持ちの良さで対面する政治家、官僚、企業人を惹きつける。

 一方で頑固。言いだしたら聞かないし、自分を通さずに物事が決まることが嫌い。大物で頑固な森氏の性格が、「新国立競技場の遅れにつながっている」と、指摘するオリンピック関係者は少なくない。

 新国立競技場の問題点は、既に、ハッキリしている。斬新なザハ・ハディド案では工費が嵩み、工期もかかるから設計の修正に迫られている。

 だが、森氏も文科省も、一度決定し、国際オリンピック委員会にアピールしたザハ案を変えたくない。

 下村博文・文科相は、6月12日、「開閉式屋根を先送り、可動席を仮設にはするが、設計の見直しは考えてない」と明言した。森氏の意向を反映した発言だ。

 しかし、それでいいのだろうか。

 施工業者に内定した大成建設と竹中工務店の試算では、「建設費3000億円、工期50か月」という驚くべき内容だった。

 建設費は当初予算1625億円の倍近く、工期は42か月を想定していたので8か月の遅れ。五輪はギリギリでラグビーワールド杯には間に合わない。

 新国立競技場の建設計画は、東京五輪招致決定の前に決まっている。そこにあったのは、ラグビーワールド杯を新国立競技場で開きたいという森氏の強い思いであり、それに同調するように石原慎太郎都知事(当時)が、建て替えに賛同した。

 今、舛添要一都知事は、その時の「都が500億円を拠出する」という森氏と石原氏の約束は、都民に説明のつかない「裏約束だ」と、拠出に反対している。

 槇文彦氏らで作る建築家グループは、「巨大アーチがコスト高や工期の長期化を招いているのだから、それを取りやめるべき。会場費は1500億円程度に圧縮、工期も42か月程度に収まる」と、提言している。

 その案がベストかどうかはともかく、決断に迫られているのは事実。「ドン・森喜朗」を説得できる人物がいなければ、日本は大恥をかくことになりかねない。

伊藤博敏
ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。『黒幕』(小学館)、『「欲望資本主義」に憑かれた男たち 「モラルなき利益至上主義」に蝕まれる日本』(講談社)、『許永中「追跡15年」全データ』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)など著書多数
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