【神戸連続児童殺傷事件】元少年Aの出版で日本も導入すべき「サムの息子法」

デイリーニュースオンライン

『絶歌』(太田出版)より
『絶歌』(太田出版)より

 日本中が、是非を巡って喧々囂々としている。

 1997年に日本中を震撼させた神戸連続児童殺傷事件。当時、14歳だった犯人の元少年A(注1)が、唐突に『絶歌』(太田出版)なる手記を発表したからだ。

 <何の連絡もなかった遺族は回収を希望><初版10万部が売り切れ状態だが、版元には抗議が殺到><出版を擁護した武田鉄矢を坂上忍が叱責><やっぱり黒幕は幻冬舎・見城徹社長か!>などなど…。真摯な提言から実にくだらないものまで、議論は収まりそうにない。

 事件当時も、そうだった。犯人が14歳と分かって世間は動揺し、混乱。あらゆる言説が飛び交い、反対意見を批判しあった。 加害者だけが少年法で守られていることに異議を唱え、少年Aの顔写真を「FOCUS」(注2)が掲載。翌日発売の『週刊新潮』も、目隠し入りで顔写真を載せた。この時も一部の「よくやった!」という声と、それをかき消すほどの社会的批判が巻き起こった。

 当時、その渦中に居て抗議電話を何本も取った筆者としては、本の中身を吟味して判決を下すことも、元少年Aの現在や未来を詮索することも今はしたくない。亡くなった児童たちと遺族の傷を増やすだけ、になる。必要なのは抽象的論争よりも、実効性ある方法で被害者遺族を癒すことではないか? 

「サムの息子法」とは

 そこで既に一部で囁かれているのが、日本版「サムの息子法」(Son of Sam law)導入の必要性だ。

 1976〜1977年にニューヨークを恐怖のどん底に陥れた連続殺人犯、デヴィッド・バーコウィッツ(注3)が逮捕された時のこと。米大手出版社が高額な報酬で手記を依頼していたことが発覚し、その是非が問われた。ここから、犯人が自らの犯罪をネタに本や映画を作らせた場合、犯人が得る収益を法廷が押収できる州法が生まれ、全米に広がったのだ。逮捕前のバーコウィッツが、マスコミや警察を煽るように送りつけた手紙の差出人名が、「サムの息子」だった。

「元少年A」と両親は、遺族に対して億単位の損害賠償義務を負っている。今回、太田出版側は「元少年Aは、印税(注4)を遺族への賠償金に充てると思います」と語ったが、すべては元少年Aの意思次第であり、強制力は無い。繰り返すが遺族の本当の痛みは、元少年Aにも我々にも分らない。だからこそ、いや、せめて、法や金銭で外側から支えるべきだろう。

 ……ただ法の精神は見習ったとしても、犯人の偽名を通称にするのは頂けない。「酒鬼薔薇聖斗法」なんて、字面も見たくない。

(注1) 元少年A…「酒鬼薔薇聖斗」でご記憶の方も多い。
(注2) FOCUS…定期刊行は2001年に終了。その後、何度か単発で発行されている。
(注3) バーコウィッツ…懲役365年で今も服役中。

著者プロフィール

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コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。DMMニュースではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ

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