ついに課税対象…「上納金」の摘発に怯える暴力団

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国策捜査と化した暴力団追放
国策捜査と化した暴力団追放

「全国から神戸に警察の山口組担当が集まっているらしい。上納金の件だろうか」

 6月17日、筆者のもとに、山口組系幹部からこんな電話が入った。

 心配するのもわかる。その前日、福岡県警は、特定危険指定暴力団「工藤会」(本部・福岡県北九州市)の野村悟総裁(68)を、脱税容疑で逮捕した。

 工藤会潰しは、「国策」で行われており、今回、野村総裁の逮捕は4度目となる。ただ、それまでは殺人など凶悪事件の容疑者だったのに、今回は脱税で、暴力団マネーにメスを入れるものである。

暴力団の取り締まりに最強の武器

 つまり汎用性がある。

「上納金は、工藤会だけでなく、全国の暴力団が、代紋(組の看板)を使う代償として構成員に求めているもの。組織を維持する根幹であり、それをトップの蓄財と認定できたら、全暴力団を干上がらせることができる」(警視庁捜査関係者)

 山口組系幹部が、警察の動きに神経を尖らせるのも当然だが、福岡県警の動きに連動していたのは“偶然”で、この日は都道府県警の山口組担当が集まり、暴対法上の暴力団としての「指定」をどうするかという定例会議だった。

 従って、「上納金」に的を絞ったものではないが、当然、山口組の上納金システムに話は及んでおり、暴力団の取り締まりに、“最強”の武器が加わったのは事実である。

 今回の摘発で、誰もが違和感を持ったのは、次の報道だった。

「上納金はこれまで課税が難しいとされてきました。これは、税務上、暴力団は多くの場合、PTAや町内会などと同じ任意の団体とみなされ、組織の運営に使われている限りは、課税の対象にできないのです」(野村総裁逮捕時のNHKニュース)

 暴排条例の施行以降、暴力団は生活権を奪われ、社会が相手にしてはならない反社会的勢力となった。

 であれば、組長のもとに集約される上納金は、企業活動を通じて「表」で稼いだカネも、覚醒剤など「裏」で稼いだカネも、犯罪収益金。PTAや町内会と同じ位置付けで課税できないとはどういうことか──。

 このため、福岡県警でも野村総裁の支配下にある10億円を課税対象にすべきだ、という意見もあったという。

 だが、組織運営費は除くという税務上の“縛り”を受け入れ、個人流用分に絞り、2億2000万円の申告漏れで8800万円の脱税として逮捕した。

 暴力団社会の側は、これまでの経験から、「上納金」にメスを入れた以上、警察や国税は、「上納金はトップのカネ」とし、課税処分をしてくると認識している。

 直系組織への割り当てか、組員個人をランク付けしての徴収か、なにか事が起きた時の金額通達か、といった集め方は様々でも、広域暴力団は必ず上納金システムを持つ。

 直系組織から月に80万円前後の上納金を受け取る山口組の場合、単純計算で月に6000万円の収入であり、それが組織の維持活動費。それをトップの収入とし、課税処分を受けたのでは到底、組織は持たないと認識している。

 暴力団包囲網が、また少し狭くなった。

伊藤博敏
ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。『黒幕』(小学館)、『「欲望資本主義」に憑かれた男たち 「モラルなき利益至上主義」に蝕まれる日本』(講談社)、『許永中「追跡15年」全データ』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)など著書多数
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