自ら考え最適化していく最強の人工知能・SOINNの挑戦

デイリーニュースオンライン

東京工業大学准教授の長谷川修氏
東京工業大学准教授の長谷川修氏

 人工知能が注目を集めている。ビッグデータ、今までのデータ処理技術ではどう扱っていいかわからない膨大な量のデータの中にパターンを見出し、有効な情報を抽出するためにはこれまでのように決まったルーチンで処理するプログラムでは太刀打ちできない。

 人間が設定したゴールに向けて、コンピュータ自体が考え、最適化していく、人間のような学習機能とある種の思考を持つプログラム(と呼んでいいのかも難しいが)が必要とされているのだ。

 これが人工知能で、株取引から自動車の自動運転技術、次世代の検索システム、IOTと呼ばれるネットワーク化された機器の統合的な制御など幅広い分野での活躍が期待されている。日本ではSF的なタームとして捉えられがちな人工知能だが、すでにグーグルやフェイスブックなどのグローバルIT企業から米国や中国などの国家まで、膨大な額の研究開発費をつぎ込んでいる。

 一方で日本の研究者の中では、人工知能は基礎研究レベルであり、まだ実用化にはほど遠いという空気が強い。たしかに人間と同レベルの人工知能を想定すれば、現状では道ははるかに遠く、基礎の基礎だといえるだろう。しかし現実に株取引を人工知能が行って利益を上げ、自動運転車の公道実験も始まろうとしている。現状が何であれ、すでに走り出しているのだ。

 あれだけ多くのパソコンメーカーを持っていたのにDELLに負け、SNSでMIXIがありながらFacebookに惨敗し、iモードで先行しながらスマートフォンで敗北し、日本企業は人工知能でもまた同じ轍を踏んでしまうのか?

 ここに1人の天才がいる。東京工業大学准教授の長谷川修氏である。長谷川氏の開発した人工知能(長谷川氏は人工脳と呼ぶ)『SOINN』(ソイン。Self-Organizing Incremental Neural Network)は現在の人工知能の10年先を行く、とんでもない技術なのだ。

「私たちの脳は汎用の学習型知能情報処理システムです。SOINNは脳のように、見たり聞いたり触ったり動いたり読んだりといったことを全部やろうというのが基本的な設計思想です」

 長谷川氏によると、SOINNはプログラムではなくアルゴリズムという、より基本的な計算方法だ。

「私たちはデータを入れるだけなんです。あとはSOINNが自分で覚えていくんです。これは従来の考え方とまったく違うところです。たとえばプロ棋士に勝つコンピュータプログラムがあります。あれはアマ五段六段のような滅法将棋に強いエキスパートがプログラムを作っています。しかし今のビッグデータは、どこにどんなデータがあるのか全体像を把握できないし、今後どんなデータが出てくるかも想定できません。誰かが設計して作っていくというアプローチ自体が機能しなくなっているんです」

 どうプログラムしていいのかわからない……ビッグデータが抱える本質的な問題である。

 SOINNはアルゴリズム、情報を処理する方法を規定したものであって、プログラムではない。

「私たちはSOINNをプログラムしません。勝手に覚えていく人工知能です。データを入れるとその中の隠された構造や順序関係などを自分で見つけて覚えていきます。ノイズらしきものは自分でカットします」

 たとえばロボットにSOINNをインストールする。ロボットにペットボトルからコップに水を注ぐという動作を指示し、たくさんの素材や大きさの違うコップを用意しておく。ガラスのコップを持つ握力で紙コップを掴めば潰れるし、プラスチックは割れるだろう。大きさもまちまちなので、ペットボトルの傾き方も変えなければ水がこぼれる。

 今までであれば、用意したすべてのコップについて、水の注ぎ方をプログラムする必要があった。SOINNはまったく違う。

コンピューターの概念を覆す学習型人工知能

「子供がオモチャで遊ぶように、コップを握らせたり、触らせたり、カメラで見せたりするんです。その時に声をかけてやるんです。スポンジを触っている時には『柔らかい、柔らかい』ですとかボールを持たせている時に『白い、白い』『丸い、丸い』と言葉を与えていくと覚えていきます。画像認識用SOINNや音声認識用SOINNを用意してそれぞれで処理をさせて統合させます」

 色や形、重さなどの概念を覚えさせると言葉が指し示す実体をSOINNが自分で覚えていくと長谷川氏。

「人が固いというとどういうものか、木でできているとはどういうことか、学習します。材質が木であることを知るためにはどうするか? 叩いた時のコンコンという音の情報が一番信用できると自分で学習します」

 木目を印刷したプラスチックと木の板を用意しておくと、見た目ではわからない。ロボットはそれを学習し、手で叩いて音で確認する。そうして学習することで、目の前に置かれたどのような材質のコップにも正確に水を注ぐロボットが出来上がる。

「お年寄りが右肩が痛いとかもうちょっと下を押してしてほしいとか言われても、ロボットは電圧をかけてトルクを強くして押すことなのか、上下に動かすことなのか、ただ見守ることなのか、わからない。SOINNはその人の言うことと自分がやることを結び付けて、自力で指示されたことをすることができるようになる」

 ロボット同士が覚えた知識をネットを通じてやり取りすることもできる。

「1台のロボットが豆腐の握り方を学習し、どのくらいの力でつかんだら潰れた、みたいな情報をクラウドにあげておくと、他のロボットが豆腐に触ったことがなくてもつぶさずに湯豆腐を作ることができたりするんです」

 SFでロボットが本を超高速でめくって内容を覚えるといったことをするが、SOINNにはそれもできる。たとえばインドの人力車と同じ画像を探すように指示すると、インターネットを画像検索、リキシャとは何かを学習する。

「多くに共通している特徴、大きなタイヤがあって屋根があるといった特徴を抽出し、人間がリキシャというものが何かを学習します。学習すれば、まったくデータにないリキシャの写真を見せても、リキシャと判別します」

 これは私たちが知ってるコンピュータとはまったく違う。まさに人工知能、人間の雛型だ。下世話な話で恐縮だが、ゲームのキャラを俺の嫁と呼んだりする。SOINNならご主人様(!)の趣味趣向を学習し、まさに自分だけに最適化された、自分のためだけの個性を持ったキャラクターとして成長できるだろう。しかもクラウドにデータを移すことで、SOINNはスマートフォンでも動く! ここまでの学習機能とコンパクトさは他社の人工知能にはない。

 これは革命と呼んで差し支えないのではないか? 長谷川氏はSOINN株式会社を起業し、ビジネス化を進めている。世界の未来を1人の日本人が変えるかもしれないのだ。

(取材・文/川口友万)

長谷川修(はせがわ・おさむ)
1993年東京大学大学院電子工学専攻博士課程修了。 2002年東京工業大学・像情報工学研究所・准教授。12年間費やして研究開発を行い、特許を取得した 独自の人工知能技術に基づいた人工脳「SOINN」を製品化し、販売するために2014年SOINN株式会社を設立、代表取締役(兼職)。SOINN株式会社HP
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