「中国という言葉すら使えない」強まる言論統制は第二の文化大革命か

デイリーニュースオンライン

photo by See-ming Lee via flickr
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 現在、中国では連日、多くの人権派弁護士が拘束・連行されています。香港のNPO「中国人権弁護士関注組」によると、7月16日現在で205人にも及んでいます。中国政府によると、こうした弁護士たちはブロガーとつながり、反政府的な世論を生み出しているのが拘束の原因のようです。今年に入ってからというもの、中国における言論統制はますますひどくなり、もはやネット上では迂闊に言いたいことが言えません。

 僕の友人の中国人風刺漫画家・王立銘先生(ペンネーム:変態唐辛子)は、現在、中国政府の逮捕の手を逃れるため、日本に滞在しています。中国のネットユーザーが、そんな王先生の作品を微博(中国版ツイッター)にアップしたところ、逮捕されるという一件も相次いでいます。自分が描いたわけでもないのに逮捕されるというのですから、ただ事ではありません。

 今年の4月13日には、習近平がナチスのように合成されている写真を、中国のSNS「QQ」上にアップした大学生が10日間、拘束される一件もありました。先日、僕はSNS上にて、その大学生と接触して話をしてみました。

「今、僕は大学を退学するハメになり、母親と喧嘩しています」

 彼は悲痛な心の内を語り始めました。今回、彼が勇気づけられたのは、そんな彼の行為が香港の林檎日報やアメリカのメディアで好意的に報道されたことでした。独裁政権に立ち向かう勇気ある大学生だと称賛を受けたのです。しかし、彼がそのことを親に伝えたところ、親は余計に怒りに駆り立てられたようです。

「バカ野郎! おまえは外国人に洗脳され、ネット上のバカたちに、悪いことを刷りこまれているんだ! アメリカのどこがいいんだ? 中国は悪くない国だよ。祖国は祖国だ!  そう怒られましたよ」

 彼はそう苦笑混じりに言いました。そして、そんな親のことを、彼は「中国社会の奴隷」と形容しました。この数千年もの間、中国では、独裁者が自分の都合のいいように国民を洗脳し、奴隷のような生活を強いてきました。そして奴隷と化した国民たちは、国家に反抗する者を叩き、保身に走ります。それが彼の言い分でした。僕ら中国人は、歴史上で一度も民主を経験したことがないから、国家とはそういうものだと諦めているのです。

中国政府に盗聴されている?

 彼の家庭の状況は、僕の家庭とも凄く似通っています。僕の親は文化大革命を経験した世代なので、とりわけ反政府的な活動に対してトラウマを持っています。例えば、現在、僕は日本に滞在していますが、親に対してスカイプでこう話したりすることがあります。

「日本の食品は安心安全だけど、中国の食品は毒だらけだね」
「中国の空気は悪いから、外出は控えたほうがいいよ」
「中国政府はGメールを遮断しちゃったから、メールが使えないのでは?」

 すると、親は激怒して、「中国という言葉を使うな!」と怒鳴りたてます。それ以降、僕は親と会話する際は、メールでもスカイプでも「中国」という言葉を使用しないように注意することになりました。

 日本に滞在している中国人の中にも同様の経験をしたことがある人がたくさんいます。彼らは、「中国」「六四」「共産党」「中共」「習近平」といった言葉を使わないように親から指示を受けています。僕らの親たちはいつ何時、中国政府に盗聴などされて、それで目を付けられてしまうのではないかと恐れているのです。ましてや中国が敵国だと位置付けている日本に子供たちが滞在しているわけですから。

 これは文化大革命世代である親のトラウマと言っていいでしょう。さすがに日本に滞在しているという理由だけで、そのメールやスカイプなどを盗み見られていることなどないと思うのですが、親の中には「音声識別ソフトと文字識別ソフトでタブーワードが引っかかる」と主張する人たちもいます。これは、中国人の多くが信じている都市伝説です。

 僕らはこのように、中国共産党が支配するトラウマが渦巻く国に生きているのです。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/杉沢樹)

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