[架神恭介の「よいこのサブカル論」]

『バットマンvsスーパーマン』が分かりにくい?彼らが闘うモチベーションとは

「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」©2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を見てきました。う~ん、分かりにくい映画だった……。バットマンとスーパーマンという誰でも名前くらいは知ってる二大ヒーローの激突であり、もうちょっと知ってる人なら「ただの人間のバットマンがどうやってスーパーマンなんかと戦うの?!」という興味を惹かれる作品なのですが……。

■バットマンがスーパーマンを倒そうとする動機が伝わりにくい

 この作品は評価が難しくて、僕は全く前情報ナシで見に行ったのですが、それはオススメできません。少し情報を仕入れてからの方がいいかも(特に『マン・オブ・スティール』の続編だというのは知っておいた方がいい)。というのは、バットマンとスーパーマンの激突をメインに描かれる本作ですが、バットマン側の「スーパーマンを倒したい気持ち」がいまいち伝わらなかったからです。

 評価が難しい、というのは、僕がその描写をちゃんと受け取れていないのか、作り手側がちゃんと伝えられていないのか微妙なところで、バットマンがスーパーマンを倒そうとする動機に繋がる描写はちゃんとあるにはあるんですね。ただ、それがしっくり飲み込めない。

 前提として中年のバットマンはお疲れ気味で気が立っており、そこに「スーパーマンはすごい力を持っててヤバイ」「スーパーマンの戦いに巻き込まれて身内が酷い目に遭った」(『マン・オブ・スティール』で描かれたバトルの裏面らしい)といった事実が重なってのあの敵意だとは思うんですが、理屈では分かるけどあまり共感できないんです。「だってスーパーマンが戦わなかったら一方的に敵に蹂躙されて、結局、被害は出てたよね?」って思っちゃう。バットマンの怒りにあんまり共感できないんですよね。

 ただ、これは僕の中でのスーパーマンに対するポジティブな印象が強すぎたせいで(というか大抵の人はポジティブな印象だけを持ってると思います)、「実際にスーパーマンみたいな凄まじい力の個人がいたら、みんな不安になる」という「新鮮さ」が飲み込めなかったのかもしれません。先入観が邪魔しちゃって、せっかくの新しい表現が受け入れられなかったと言いますか。

 なので、ちょっと悲しい対処法ですが、「この作品ではスーパーマンの力に対して、人々はそれほどポジティブな印象を持っていない」「それはバットマンも同じ」「これはそういうのを描いた映画だ」という前提を押さえて見に行った方が、すんなり飲み込めて楽しめると思います。その視点は、言われれば確かに面白いことは面白いんですよね。ただ、劇中の描写だけでそれをしっかり受け止められるかというと疑問符が付いちゃう。

 そしてさらに難しいのが、今回の悪役であるレックス・ルーサー。スーパーマンの宿敵として有名な彼ですが、今回、なんで彼が「スーパーマン絶対殺すマン」になったのかよく分からない。若いし、髪もフサフサだから、「ヴィランである親父(レックス・ルーサー)がスーパーマンにやられたから、息子のルーサーJr.が復讐する話なのかな?」とずっと勘違いして見てたくらいです(ルーサー本人でした)。

 レックス・ルーサーのキャラクターは本当によく分からなくて、クリプトン星のテクノロジー独占を狙ってるようにも見えるし、スーパーマンを倒すことが至上目的にも思えるし、知的好奇心が先立ってるのか、世界征服を狙ってるのか、はたまた本気で地球のためを想って動いているのか。とにかく、なんでそんなにモチベーションが高いのか、よく分かりません。

 一方でやり口は苛烈で、「ダークナイト」のジョーカーみたいなサイコさもあり、ゾッとするくらいの悪ではあるんですが、しかし、ジョーカーのような理解不能なりの説得力は持たず、本当に何がしたいのか分からない。最後にドゥームズデイを生み出したのも、それで最終的に何をするつもりだったのか見えてこないです。これ、アメコミのコアなファンだったら分かるんですかね?

 スーパーマンをハメるために、アフリカの武装勢力のところでルーサーが姦計を仕込む流れも、どうも展開が回りくどくてややこしく(分からなくはない)、全体的に言って、視聴者に不親切な映画であったような気がします。流れはしっかり負わなきゃ理解できないし、アメコミ知識も必要。ワンダーウーマンがほとんど説明なく出てくるのも、「バットマンとスーパーマン、どっちも知ってるから見に行こ~!」っていうくらいの視聴者を振り切ってると思うんですよね……。ワンダーウーマン、その二人に比べたらやっぱり知名度落ちますし。

 ただ、そういった分かりづらさに目をつむれば、「ただの人間のバットマンがどうやってスーパーマンなんかと戦うの!?」という視聴者の興味には十分応えてくれる作品だったとは思います。最後に、バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマンがドゥームズデイと戦うことになり、スーパーマンとワンダーウーマンがドゥームズデイとバコバコ殴りあうけど、スケールがデカすぎて、「バットマン、これ、カスっただけで死ぬよなあ」と思わざるをえない感じはとても良かったですよ。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

ピックアップ PR 
ランキング
総合
連載