−−没後23年、田中角栄が今なお人を引き付ける理由は何でしょうか?
小林 アベノミクスの是非や憲法改正など、さまざまな問題が取り沙汰されていますが、今の政治はダイナミズムに欠けていると言っていいでしょう。国民が夢を感じることができないんですね。そんな政治状況に対する閉塞感の中、田中角栄の抜群のリーダーシップと飛び抜けた政治能力があらためて見直されているんだと思います。都市と農村、太平洋側と日本海側の格差是正に全力を挙げ『日本列島改造計画』にチャレンジした田中角栄は、戦後歴代首相の中で最も多くの仕事に立ち向かいました。そして、国全体が沸き立つほどの手腕を発揮したのです。その説得力を最も顕著にしていたのが名演説、名スピーチをほしいままにした『角栄節』なのです。
−−“人々の心をつかむ”スピーチの特徴とはどんなものだったのでしょうか?
小林 私は田中が自民党幹事長時代から亡くなるまでの実に24年間、多くの演説を聴いてきましたが、その見事さは他の政治家の比較ではありませんでした。その最大の特徴は『みんなが納得する話し方』をすることです。会場にいる誰もが退屈せず、一体感を作り上げる手法は実に多彩でした。例え話をふんだんにまじえて笑いを誘い、時には情のある話でしんみりさせ、最後は結びをピシャリと押さえるのです。気が付けば観衆はみな一様に「今日はここに来てよかった」と顔を紅潮させていたのを今でも覚えています。
−−今の政治家でそこまで上手なスピーチをする人はなかなかいませんよね。
小林 田中ほどのスピーチができる人は少ないと思います。小泉進次郎は分かりやすいワンフレーズを取り込み、観衆の心をつかむのはうまいですね。とはいっても、言ってみれば一発芸。その場では拍手喝采となっても、長い演説は得意じゃないでしょう。緩急自在に説得力抜群のスピーチをする田中とは比べ物になりません。
−−サラリーマンがプレゼンなどでスピーチをする際に、参考になる部分はありますか?
小林 スピーチの中に必ず具体的な数字を盛り込むことです。数字による説得は何より強い。田中は何年何月何日の何時何分など、細部にわたるまで具体的な数字をきっちりと頭の中に記憶してスピーチしていました。もっとも普通の人がそこまで記憶することはなかなか難しいです。重要な数字は一つ二つメモを持って事前に織り込んでおくと、プレゼンに有効となると思います。
(聞き手/程原ケン)
小林吉弥(こばやし きちや)
政治評論家。1941年、東京都生まれ。早稲田大学第一商学部卒業。的確な政局・選挙情勢分析、独自の指導論者論・組織論に定評がある。執筆、講演、テレビ出演など幅広く活動。本誌にて『侠の処世』好評連載中。
話題の1冊 著者インタビュー 小林吉弥 『田中角栄 心をつかむ3分間スピーチ』 ビジネス社 1,000円(本体価格)
2016.09.11 18:00
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