まだ20世紀だった頃。ドラフトには「サプライズ」や「隠し玉」がつきものだった。近年、そんな“驚き”は少なくなったなぁと思っていたところ、今年は久しぶりに意外性の多いドラフトだったのではないだろうか。
外れ1位で5球団が競合。準硬式野球部の選手が2人。軟式野球チームの選手が1人。2メートル超えの台湾人選手……。才能の芽を逃すまいという各球団編成・スカウトの苦労には頭が下がるばかりだ。
そんな今だからこそ、あの男の存在を久しぶりに思い出してしまった。その男の名は根本陸夫。往年の野球ファンにとっては懐かしい名も、若い野球ファンは耳にしたことがないかもしれない。だからこそ、読んで欲しい本がある。『プロ野球のすべてを知っていた男 根本陸夫伝』だ。
著者は高橋安幸。野球太郎的には『伝説のプロ野球選手に会いに行く』シリーズでお馴染みの著者だ。その高橋が取り上げたのが、近鉄、西武、ダイエーにおいて数々の伝説ドラフトをしかけた根本だった。
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■入団拒否をする選手の親にすっかり気に入られた男
クライマックスシリーズで激闘を繰り広げたソフトバンクとロッテ。それぞれの指揮官である工藤公康と伊東勤は、根本が見いだした人物として知られている。
来季の西武新監督に就任した辻発彦と、代行から正式に監督に就任した中日の森繁和。この二人の新監督もまた、根本が発掘・育成にかかわった人物だ。
ほかにも、侍ジャパンの小久保裕紀監督。各チームのコーチ陣まで含めると、今のプロ野球界において根本人脈のいないチームを探す方が難しい、といわれる。本書は、そんな「根本遺産」ともいえる野球人たちが根本について証言していく構成になっている。
たとえば、上述した工藤公康。工藤といえば、名古屋電気高(現・愛工大名電高)で甲子園のスターだったにもかかわらず、プロ入りを拒否し、社会人入りを表明。ところが、1981年ドラフトで西武が6位強行指名。入団にこぎつけたのは有名なエピソードだ。
このとき、西武の編成責任者を務めていたのが根本だった。
《結局、親父が根本さんを気に入って、コロッといってしまって……。『君がプロ野球に進んだら、オレを所沢の親父だと思ってくれればいいから』という言葉が効いたみたいです》(『根本陸夫伝』から、工藤公康の証言部分)