――東京藝大の学生のさまざまな「ぶっとび」エピソードが満載です。印象的だったものを教えてください。
二宮 妻から聞いた話です。学校の研修旅行で海に行ったんですが、そこに野良犬の死体があったそうなんです。そうしたらクラスメートがそれを持ち帰ろうとしたんです。加工して骨格標本のようにして、家に飾りたかったんですね。ビニール袋に入れたそうですが、それでもバスの中に臭いが充満して、バスガイドさんが絶句したとか。好奇心が旺盛で行動力がありますね。しかも、そのクラスメートは女の子だったというのですから、僕も驚きました。
――多数の藝大生にインタビューをしています。実際に彼らと接してみて、どんな印象を持ちましたか?
二宮 活動内容だけを聞くと、下着を顔にかぶるとか、楽器を川に沈めるとか、テーブルをたたいて演奏するとか…、どれも奇抜であり、あるいはあまりに別世界すぎて度肝を抜かれてしまいます。そこだけで終われば、天才であるとか、持って生まれた才能が別物であるとか、そういった印象かもしれません。ただ、学生たちにじっくり話を聞いていくと、真摯に芸術と向き合い、試行錯誤しながら努力した結果であることが分かってきます。それは僕たちが毎日ちょっとずつ何かを努力するのと本質的には同じであり、いつの間にか親近感を抱くようになっていましたね。
――奥様は現役の藝大生だそうですね。やはり普段の夫婦生活もちょっと変わったところがありますか?
二宮 何だか物をすぐ作ってしまうんですよ。ある日、箸が1膳増えていて、聞いたら「作った」と返されたこともありました。木さえあれば、切って削って、作れちゃうんですね。だから妻のお義父さんからのプレゼントもちょっと変わっています。この間は板をもらいました。「いい板だからテーブルでも作りな」と…。妻は喜んで受け取っていました。
――本書には藝大の魅力がぎっしりと詰まっています。二宮さんにとって藝大とはどんなところだと思いますか?
二宮 藝大はとても自由な学校で、人間の多様性をはじめから認めているような気持ちのよさを感じました。また、藝大の学生たちはみな、僕たちにはできないことを一生懸命やってくれています。遊園地のアトラクションのデザインは美術ですし、コンビニの入店音は音楽です。そういった形で、僕たちは普段から芸術の恩恵に浴しています。藝大が存在することに改めて感謝するとともに、学生たちに尊敬を覚えました。
(聞き手/程原ケン)
二宮敦人(にのみや あつと)
1985年、東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。数々の小説を送り出し人気を博す。本書が初めてのノンフィクション作品となる。
話題の1冊 著者インタビュー 二宮敦人 『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』 新潮社 1,400円(本体価格)
2016.12.18 16:00
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