「おい、見てみろ。ヌーみたいな顔した女が歩いてるぞ」
少し前、車での移動中、後部座席に鎮座した殿は、実にうれしそうに助手席のわたくしにこう告げてきたのです。気心の知れた弟子しかいない状況がそうさせるのか、“車中での殿”は、猛烈に毒舌度が増します。
その昔、「毒ガス漫才」「生意気漫才」で鳴らした、ツービートの“よくしゃべる生意気な小さいほう”とまで言われた殿ですから、普段から毒舌であるのはみなさんも知ってのとおりです。その毒舌ぶりは、70歳を目前にした現在もまったく衰えておらず、日々、まるで義務のように、毒ガスを吐き出しています。そんな毒ガスが、格段に濃くなる空間が“車の中”であり、車内での殿は、はっきりと“お口が悪くなる”のです。
目に入る、行き交う人、すれ違う車、そして、ロケ地の少しローカルな町並み等々、ご自身の瞳に映る全てにツッコんでは、濃い毒を車内で吐き散らします。
もうその様子は、殿の毒ガスの大ファンであるわたくしでさえも、「殿、何もそこまで言わなくても‥‥」と、苦笑を禁じえないものばかりです。
で、毒舌とはその人のセンスそのもの。ですから、くどくどと説明するのも野暮なため、わたくしが今日までに車内で聞いた殿の毒ガスを羅列いたします。
「おい、あんなやつのチ○ポ、誰が舐めんだよ」
「すごいな。1キロ先からでもバカってわかる顔した奴が歩いてくるぞ」
「しかし田舎だな。この辺の男はみんな初体験はどうせヤギだろ!」
こんなこと、ずーっと言ってます。
で、おかしいのはその逆もあって、殿が常々提唱している振り子理論の「振り幅」よろしく、何かでご機嫌になると、まるで天使のように、それはそれは見るもの全てを褒め出す、“善人たけちゃん”に、変貌されることがあるのです。
15年程前、わたくしが臨時で殿の運転手を務めていたある夏のこと──。
その日、映画関係の案件で素敵な出来事があった殿は、車に乗り込むや、
「今日はいい日だな~。