赤身の牛肉にどれだけ“サシ”(霜降り)が入っているかを表す霜降り肉の指標の代表格『A5ランク』は、テレビ番組でも依然として高価でおいしいともてはやされている。ところが、消費者の味覚はすでに“A5離れ”を起こし、赤身に移りつつあるという。その結果、高級牛肉のイメージが揺らぎつつあり、A5の呪縛に取り付かれた畜産業者が危機に直面している。
「東京・六本木を中心に展開する牛肉焼き肉レストラン『K』の商品は、A4やA3の雌牛を中心にした赤身肉が多いです。その考え方は、最高ランクのA5の肉が必ずしもおいしいわけではなく、A4やA3の肉でも熟成させて、焼き方を工夫すれば、とてもおいしい肉になるというもの。脂肪のサシがあまり入っていない赤身肉だからこそ支持されている調理法です」(グルメライター)
そもそもA5が最高ランクの肉と言われるようになったのはなぜなのか。
「肉の格付けは、生牛から皮や骨、内臓などを取り除いたときの肉が多いかどうか(歩留等級)でA~Cが決まり、その上でサシがどれだけ入っているかという『脂肪交雑』や見た目の色など(肉質等級)によって5~1にランク付けされます。従って格付けではA5が最高ランクとなり、日本ではおいしい牛肉の代名詞となったというわけです。しかし、サシが多ければ多いほど肉がおいしいかというと、そうでもありません。脂肪分であるサシが増えると、肉は軟らかくなり食べやすく、口の中でとろけるような食感も味わえます。一方で赤身部分にあるグルタミン酸やイノシン酸などのうま味成分はあまりありません。おいしく感じるには脂肪とうま味成分のバランスが大事なのです」(同・ライター)
A5ランク牛肉に希少性がなくなった
A5の肉が市場で一番高く売買される。だが、皮肉なことに生産者がA5を目指すあまり、結果的に市場にはA4とA5の肉が8割程度を占めるようになり、昔ほど希少性はなくなった。すると経済合理性から言って価格は相対的に下がる。
「いまや飼料に金をかけてA5を目指しても、それに見合った価格での取引が実現しにくくなっています。追い打ちをかけるのが子牛価格の上昇で、仕入れ値が高くなっているのに、それに見合う形では最終販売価格が上がらない状況です。この影響で畜産農家の経営は苦しくなり、結果的に畜産農家が減り続けています」(日本畜産に詳しいジャーナリスト)
赤身牛肉の味が見直されることはいいことだろう。だが、今度は赤身肉が希少部位になってしまいかねない。
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