吉永小百合73歳のなりふり構わぬ「汚れ役」に要注目の映画

| まいじつ
吉永小百合73歳のなりふり構わぬ「汚れ役」に要注目の映画

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『北の桜守』

配給/東映 丸の内TOEIほかにて3月10日から全国公開
監督/滝田洋二郎
出演/吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、阿部寛、岸部一徳ほか

この3月13日で73歳になる吉永小百合。日本映画の現役第一線の大女優であることに異論はあるまい。かつて“サユリスト”という言葉が生まれたほど、いまでも根強い人気を誇っている。ただ、個人的には、もともと“アンチ清純派”のせいもあって、吉永小百合はその“象徴的仮想敵”でもあった。汚れ役をやってもどこか徹し切れない(周りもそうさせない)部分が不満だった。小百合主演の東映“北”シリーズである明治の開拓期を描いた『北の零年』(2005年)、現代の離島を舞台にした『北のカナリアたち』(2012年)もその域を出なかったと思う。まあ、ゆえに“永遠の清純派”なのだろうが…。

そんな北海道を舞台にした人間模様をスケールたっぷりに描いた“北の三部作”のトリでもあるこの作品、初めて小百合映画を撮る『おくりびと』(2008年)の滝田洋二郎監督はどうアプローチしたのか、興味津々ではあった。今回は、この近代日本の150年で最も激烈な時代であったろう太平洋戦争終結時、ソ連軍が侵攻してきた樺太から物語りは始まる。

戦後を生き抜くためになりふり構わず

桜守をして桜を育んできた江蓮家の妻・てつ(吉永)は突然の悲劇の渦中で、夫・徳次郎(阿部寛)を残し、息子たちを連れて北海道に渡るが、苦難の旅路はさらに続く。網走でおにぎり食堂を営むてつは、長い隔たりを経て、外資系の店の責任者となっていた次男・修二郎(堺雅人)と再会するが…。

注目は何といっても、小百合がなりふり構わず“汚れ役”に挑戦しているところだろう。これまでの2作の“よそ行き感”はどこへやら。戦後を生き抜くためにヤミ米屋を手伝って警察に追われたり、飢えを満たすためには畑泥棒も辞さない。畑で芋を盗み「あれは道に落ちていたの。いいわね」と息子に言い聞かせる。こんな小百合、見たことがない!

後半はもっと凄い。少し様子がおかしくなり、認知症に至るまでをしっかり演じていたのには驚かされた。もちろん天下の大女優なので、阿部には“お姫様だっこ”されたり、堺には何度も強く“ハグ”されたりと、大切にされていることも分かる。

なりふり構わない戦後の母を演じても、どこか“浮世離れ感”も失わないあたりはいかにも小百合らしい。滝田監督は、小百合の既製イメージを巧みな形で崩すことに成功している。さすが、かつてはピンク映画で鳴らした猛者である。

テレビスポットでも何度も強調されている“衝撃の結末”がウリ。ラストで、はたして小百合がどうなるのか、ぜひ注目してほしい。

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