遠藤周作いわく「すげえ娘だ」
対して、思春期の真紀子に徐々に自我が目覚めてくる。日本女子大学付属中学からそのまま高校に進学した真紀子は、2年生になったとき、突然「アメリカへ留学したい」と言い出した。田中としては、良妻賢母として育てたいのにアメリカでヘンな虫でも付けてきたらたまらんということで、猛然と反対したのである。当時のことを、田中の関係者から聞いていた旧田中派担当記者の証言が残っている。
「『どうしても行く』と譲らない真紀子に対し、田中は『貴様、まだ未成年だろ。扶養の義務はオレにある。20歳になってから行け』となだめ、すかしをしたがラチがあかない。田中はついには、真紀子に手を上げるという修羅場になったと言う。それから約半年間、真紀子は田中に一切口を聞かずのダンマリ戦術。ついにはな夫人が『この人の気性ならキチンとやってくると思います。やってあげてください』と田中を説得、ようやく留学が実現した。こうした父娘のケンカはまだ多々あったようで、二人とも言い出したら聞かない。真紀子の“反撃”を受けて、田中はトイレに逃げ込み、内からカギをかけてしまったこともあった。真紀子はこれを、父親との『タイトル・マッチ』と言っていたそうです」
のちに真紀子は演劇の道にのめり込み、雑誌の対談が縁で作家・遠藤周作の推薦をもらって劇団『雲』の研究生になったものだが、その対談で話がハデな父娘ゲンカに及んだあと、遠藤は半ばこう嘆息した。
「キミはすげえ娘だねぇ。お父さんがかわいそうな気がしてきたぞ。とにかく、キミは実行力があるんだなぁ」
かくて、真紀子は念願のアメリカ留学へ旅立ったが、その地でほろ苦い恋心を燃やす相手と出会うことになる。田中の父親として最も恐れていたことが、密かに進行していたことになる。
=敬称略=
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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。
田中角栄「名勝負物語」 第一番 田中真紀子(2)
2018.08.26 12:10
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