“売春に墜ちた”27歳「元看護師」を22歳の女性監督が描く『真っ赤な星』

| まいじつ
“売春に墜ちた”27歳「元看護師」を22歳の女性監督が描く『真っ赤な星』

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『真っ赤な星』

配給/株式会社SDP 12月1日よりテアトル新宿ほかで公開
監督/井樫彩
出演/小松未来、桜井ユキ、毎熊克哉、大原由暉、小林竜樹ほか

昨年、カンヌ映画祭を騒がせ、今ひそやかに注目されている22歳新人女性監督・井樫彩の才能を垣間見る思いの“刺激的な”新作だ。体を売る生活の元看護師27歳と居場所のない少女・14歳との寄る辺なき魂2人のさすらいをシビアに描いて、全く甘さを排している。近年の若い監督としては男女を問わず、こういう感覚は珍しい。

田舎の病院にケガで入院した少女・陽(小松未来)は、優しく接してくれた看護師の弥生(桜井ユキ)に特別な感情を抱き始めるが、退院の日、彼女が突然看護師を辞めたことを知る。1年後、陽は、偶然出会った弥生が、体を売って生計を立てていることを知る…。

関わっているが、交わっていない、切なさよ

家にも学校にも居場所がなく、母の彼氏に襲われる14歳の少女と、過去の面影はなく、妻子ある男(毎熊克哉)と恋人関係にありながらも、密かに春をひさぐ生活を送っている27歳。2人の女性の心の闇を、そのだいたい中間世代の22歳の女性監督はしっかり見つめて、安易な妥協点を設定しない。

弥生のアパートで2人は奇妙な同居生活を始め、何とか心の空白を埋めようとするが…「関わっているが、交わっていない、切なさよ」と自作を形容する、この若い女性監督の過去に何があったのか、つい知りたくなるほどだ。北海道出身の彼女、子供のころの看護師さんとの記憶が今回の作品のヒントになっているようだが、若くして、何らかの絶望や諦念を覚えたのか?

少女役の小松未来も達者だが、成人女性好きのボクとしては“売春生活を送る元看護師”という扇情的な役柄をこなす桜井ユキに思い入れてしまうね。今年春に公開された『娼年』では男娼役の主演の松坂桃李のお相手をする女性の1人を演じて鮮烈だったが、今回はさらに良かった。赤いノースリーブをラフに着て、タバコをくわえるアンニュイ漂う風情と汗ばむ体がたまらない。近年これほどタバコが似合う女優を他に知らない(褒め言葉です、念のため)。不謹慎ながら、つい“指名”しようかと思ったほど。カーセックスの相手の常連客に「中出しできるのはいいよな」とうそぶかれるほどの退廃ぶり。実は彼女、子供がもう産めない体になっているのだ。

色使いや風景、エロス描写の巧みさ。新人監督賞という部はなかなか各賞にないが、もしあれば、今年は『井樫彩』と書きたいほどだ。

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