五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(10)死を思いつつ老いを行け!

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五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(10)死を思いつつ老いを行け!

五木 これから高齢に向かう人たちにメッセージを発するとしたら、「年なんか気にするな」という考え方がひとつ。年なんか気にしないで好きなことをやって不良老年になれということと、反対にしっかり年を意識して死を見つめてそれなりの充実した老後を過ごせという二つあるでしょう。そのどちらかを選ぶというのではなくて、この両方を生きるというのがぼくの提言です。昔、花田清輝という思想家が、「楕円の思想」ということを言いましたが、真実というのはバレーボールのように一カ所に中心があるんじゃなくて、ラグビーボールのような楕円形のなかに、二つのアンビバレントなものが両方あって、その両極を往復しながら動的に生きていくというのが正しいんだと。世の中腐ってるという考えと、でも人間の優しさや真実というものもちゃんとあるという考え方、その二つの視点が必要なんじゃないか。高齢期は心身が衰えて辛い。しかし高齢期もけっこう面白い。この両方がある。一つの視点だけで物を考えない柔軟性をもって生きていけばいいと思います。

椎名 ぼくは、これから高齢期を迎える人たちに向けてのメッセージとしては、申し訳ないけど何もないですね。

五木 人生の指針とか、人にプラスになるようなことは、本当は言えないですから。椎名さんが、何も言うことはないというのは、本当に正直な言葉だと思いますね。ぼくがさっき二つの視点を持って生きろと言ったのは、世間の人にお世話になって今日まで生きてきたんだからそのお返し、サービスのつもりなんですよ(笑)。

五木寛之(いつき・ひろゆき):1932(昭和7)年、福岡県生まれ。作家。北朝鮮からの引き揚げを体験。早稲田大学露文科中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞。76年『青春の門 筑豊編』ほかで吉川英治文学賞。

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