『空の瞳とカタツムリ』~蝸牛の交尾のごとく…これぞ“ロマンポルノ”男女4人の物語~

| まいじつ
『空の瞳とカタツムリ』~蝸牛の交尾のごとく…これぞ“ロマンポルノ”男女4人の物語~

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『空の瞳とカタツムリ』

配給/太秦 池袋シネマ・ロサほかで全国公開
監督/斎藤久志
出演/縄田かのん、中神円、三浦貴大、藤原隆介、柄本明ほか

『まるで、ロマンポルノのようで懐かしい…』と観た人が言った、という斎藤監督の言葉通り、中高年世代としては若いころ“お世話”になった懐かしの“にっかつロマンポルノ”(71~88年)の世界に誘われたような気分に、確かになった。脚本の荒井美早は、著名脚本家でかつて『赫い髪の女』(79年)、『ダブルベッド』(83年)などの名作ロマンポルノやピンク映画の脚本も手掛けた荒井晴彦の愛娘、と知ると妙に納得する。もっとも、監督は少女漫画界のレジェンド、大島弓子の世界を意識しているという。ボクは少女漫画には不案内なので、ここはやっぱりロマンポルノを意識しながら観た。

祖母の遺した家をアトリエにしている夢鹿(縄田かのん)は美大時代の友人、十百子(中神円)、貴也(三浦貴大)がいる。しかし、十百子は極度の潔癖症ゆえに、夢鹿以外との肌の接触を拒絶する。一方、夢鹿は、自分の中の虚無感を埋めるように、男とは誰でも一度きりの条件で寝る女性だった。この女2人に男1人の危うい関係の中に、ピンク映画館に出入りする青年、鏡一(藤原隆介)が入り込んで…。

雌雄同体の蝸牛(カタツムリ)は交尾の際に鋭い矢を突き刺すという。これを“恋矢(れんし)”と読むのだそうだが、何ともロマンチックな響きとは裏腹に、この矢は交尾相手の生殖能力を低下させ、寿命をすり減らすとか。そんなカタツムリのように、命ギリギリで、求め、避け、傷つけ合う若い男女4人の葛藤を、真正面から性を描くことで際立たせる。まさに、ロマンポルノのソレである。

女優たちの気合いの“艶技”

縄田は裸婦モデルのシーンから一糸まとわず、教授(柄本明)の前でも平気で着替え、貴也と初エッチするシーンでも横になっても崩れの少ない美乳を全開させたり、潔癖症の十百子に『汚いものを見せてあげるわ』と閑散としたピンク映画館の中で複数の男に弄ばれるところを見せつける。一方、中神も負けじと、全裸で浴室や自分の体を病的なまでに洗うシーンでのスリムな裸身や、鏡一との濡れ場では薄く茂ったヘアのヌードもフェラ演技も辞さぬほど。女優たちの気合いの“艶技”が、一見、低体温に映るこの作品を熱くする。

いわば、モラトリアム(大人になる猶予期間に止まろうとする心理状態)をテーマにして、かなり繊細で、大胆な作品に仕上がった。題名は、故・相米慎二監督の『風花』(01年)のタイトル変更案だったそうだが、この新作にこそふさわしい。そういえば、相米監督にも『ラブホテル』(85年)というロマンポルノの大傑作があったなあ。時を経て、ロマンポルノの体温を嗅ぐのもまた、楽しからずや。

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