やくみつるの「シネマ小言主義」 実話をもとにした、おやじシンクロ物語『シンク・オア・スイム―イチかバチか俺たちの夢―』

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やくみつるの「シネマ小言主義」 実話をもとにした、おやじシンクロ物語『シンク・オア・スイム―イチかバチか俺たちの夢―』

 うつ病や介護など、さまざまな事情を抱えたフランスのおやじたちがシンクロナイズド・スイミングチームを結成し、ひょんなことから世界選手権を目指すことになるという映画。あ、今は「アーティスティックスイミング」と言うらしいですが、どうも馴染めません。シンクロでいいのにね。

 さて、冴えないヤツらが分不相応な目標にチャレンジするストーリーは、洋の東西を問わず定番として数多く作られています。杏の『オケ老人!』、広瀬すずの『チア☆ダン』しかり。そして結局のところ、結論は2通りしかありません。大失敗するか、あるいは、まさかの技術向上で成功するか。つまり、ラストがどうなるかというより、そこに至るまでの小ネタやエピソードが、この手の映画の面白さの決め手になるわけで。

 その点では、本作はちょっと弱いかなと思ってしまいました。何より、シンクロという難易度の高いスポーツを役者自身が演じているので仕方ないかとも思うのですが、寄せ集めのおやじたちがいかなる特訓で上達していくかの様子がほとんど描かれない。そのまま、いきなり国を代表して出場してしまうので、“いつの間にそんなレベルに?”という気がしました。

 この映画、本国フランスでは200万人動員して大ヒットしたらしいです。フランス人は気位が高いから、自虐的な描写は好まれないのかもしれませんが、泳ごうとしたら脚がつったり、潜ろうとしてもなかなか潜れなかったり、そういうところから始めてほしい。そして、そんな無様な中年男たちがどんな訓練をしたら、たとえ腹が出てても美しく見え、動きを揃えることができるのかを見たかった。

 で、自分の身の回りにそういう志の人はいないのかというと、自分のアシスタントの山田が何を思ったか、シンクロをやり始めたことがあります。趣味と美容を兼ねてだと思うんですが、発表会もちゃんとあったんですよ。興味本位で応援に行きました。

 その中には、絵にかいたようなおデブちゃんもいたりして、みんな一生懸命演技しているんです。見るからにダメダメのシンクロ大会なんですが、けなげに頑張っている様子を見守る会場の雰囲気は温かでした。

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