夫・大海人皇子の兄である天智天皇に求愛され、泣く泣く皇子と離婚して天皇の恋人となった額田王。前回に引き続き、「万葉集」に収められた彼女の有名な歌を解説します。
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あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
「茜色に夕映える紫草の標野を、皆が鹿狩りや薬草摘みに忙しく行き来している。その中で、大海人皇子が向こうから私に向かってにこにこ無邪気に手を振っている。どうしましょう、標野の番人に見られてしまうじゃない」・・・。
なぜ、元夫の大海人皇子が手を振ってくるのがそんなにまずかったのでしょう。
実は、今でこそ男女が手を振るのは挨拶くらいの意味ですが、飛鳥時代の手を振るという行為は、魂を自分の方に引き寄せようとする、つまり明確な求愛行動だったようなのです。つまり、大海人皇子は額田王に「好きだー!」と大声で叫んでいるようなもの。
確かに、それを御料地の番人や今の夫である天智天皇に見られたらまずいですよね。そしてそれだけでなく、もしかするとそれ以上にまずかったのは、そんな可愛い大海人皇子にまだ心を揺らしている自分を、額田王自身が自覚してしまうからだったかもしれません・・・。