野菜や作物の名前を漢字で書くと「胡」という文字がよく入っています。例えば胡瓜(きゅうり)、胡麻(ごま)、胡桃(くるみ)、胡椒(こしょう)・・・。
他に、大蒜(にんにく)を「胡蒜」と書いたり、蚕豆(そらまめ)を「胡豆」と書くこともあります。
「胡」の瓜、麻、桃・・・ということですが、この「胡」には一体どんな意味があるのでしょう。
古代中国では、中央アジア=胡「胡」は古代中国では夷狄(いてき)つまり異民族を意味します。秦や漢の時代には主に騎馬民族の匈奴を指しましたが、やがて西域(さいいき)すなわち中央アジア一帯を指す言葉になりました。
現在の国名でいうと、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンのあたりです。さらに西のイラン(ペルシャ)を指すこともあります。
一説に、前漢の武帝の命を受けて西域を旅した張騫(ちょうけん)が、胡瓜や胡麻を初めて中国もたらしたとされますが、確証はなく、「胡」のつく作物すべてを彼が持ち帰ったわけではなさそうです。ちなみに張騫の旅がきっかけとなって、人々の西域への関心が高まり、後のシルクロードの発展へとつながっていきます。
古代中国人は漠然と、シルクロードを通ってやってきたものに「胡」をつけて呼んでいたので、「胡」がつく作物すべてが中央アジアを原産地とするわけではありません。
まだまだある「胡」がつくもの唐代の詩人、李白は大の酒飲みで、毎晩「胡人」が営む居酒屋に入り浸っていたといいます。
彼が愛したのは「胡酒」つまりワイン。盃を片手に眺めていたのは、「胡弓」の奏でる「胡曲」(外国の音楽)に合わせて「胡姫」(異国の美女)が舞う「胡旋舞」(ぐるぐる旋回するダンス)。
ときには酔っぱらってイスから転げ落ち、「胡坐」(あぐら)をかいていたかもしれません。
またイラン風の広い折り襟のついた服は胡服、餃子や麺類など小麦粉をつかった料理もかつては胡食と呼ばれました。
正倉院宝物の中にある有名な漆胡瓶(しっこへい)も「胡」が付きます。ペルシャ風の漆の瓶ということですね。
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