良かれと思って言ったことで相手を傷つけてしまったり、相手に気に入られようと努力したがまったく的外れに終わったりと、とかく人間関係は難しいもの。
ただ、難しいと思っていると余計にうまくいかなかったり、失敗するかもしれないと思っていると本当に失敗してしまうのが人間でもある。「人間関係なんて、そこそこうまくやれれば十分」「誰かに嫌われたって、死ぬわけじゃない」と、気楽に考えられればもうけものだ。
心理学者の内藤誼人氏による『世界最先端の研究が教える さらにすごい心理学』(総合法令出版刊)は人間心理にまつわるユニークな研究をとおして、時に不合理で不可解な人間の心のありように迫る。いつの時代も私たちが悩みがちな「人間関係」についても、これまで正しいと思われてきたことを覆すような結果を示す様々な研究があるようだ。
たとえば、私たちは家庭の中でも職場でも、学校でも、誰かと意見が食い違ったり対立したりすると、「お互いに思ったことを言い合って、話し合う」ことがよしとされている。話し合うことで対立点がはっきりし、妥協できるところとできないところが整理されることがあるからだ。そして、話し合わずにいることは、「問題を先送りしているだけ」ということで、あまりいいこととはされていない。
ただ、この「問題の先送り」は、案外悪いことではないのかもしれない。
アメリカ、イリノイ大学のキース・マーニガムは20のプロ弦楽四重奏メンバー計80人を対象に、演奏やコンサートについてメンバー間での衝突があるかどうかをインタビュー調査した。
同時にこの20のグループについて「コンサート料金」「アルバム数」「他の弦楽四重奏グループからの評価」「昨年のコンサート回数」「グループに関する記事の新聞や雑誌への掲載数」「そこでの評価」という指標で「成功の度合い」を計ったところ、成功しているグループほど、メンバー間で気に入らないことがあっても、解決するための「話し合い」をしていなかったという。