シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ Bさん(広島県・50代女性)
約25年前の蒸し暑い日。Bさんが赤ちゃんを抱いて路面電車に乗ると、初老の男性が席を譲ってくれた。
しかし、その席に若いビジネスマンが滑り込み......。
<Bさんの体験談>
30代の初めのころ、結婚6年目にしてやっと授かった息子と路面電車に乗った時のことです。
片手にはまだ1歳になる前の息子を抱っこし、もう片手には折り畳んだベビーカーを持って乗り込みました。
「あなたのお母さんもこうやって...」当時は車内でベビーカーを畳むのが当たり前。乗降するにはステップもあり、移動は大変。
その日はとても蒸し暑い日で、混みあう車内で汗をかきながら不安定な体勢になっている私に、初老の男性乗客が気付き、「座りなさい」と席を譲ってくれました。
その途端、若いビジネスマンがそこに着席したのです。
譲ってくれた男性客は「この席は子育て中のお母さんとお子さんに譲ったものだ。あなたにではない」と言ってくれましたが、ビジネスマンは文句を言います。
しかし「あなたのお母さんもこうやってあなたを育てたんだ」と男性が言うと、ビジネスマンは立ち上がりました。
私はあけてもらった席に座らせてもらい、やっと汗が引きました。
降車後、初老の男性に「ありがとうございました」とお礼を伝えると、彼には私と同じくらいの年齢の娘さんと、お孫さんがいるのだと教えてくれました。そして「どうしても知らないふり出来なくてね」と。