【カルトメシ】
日本全国の不思議な料理を食べ歩くこの企画。第1回となる今回は、奇食界隈ではカリスマ的な人気を誇る、東京・葛飾のお花茶屋駅近くの喫茶店「亜呂摩(アロマ)」を訪れることにした。
ラーメンの上にキウイ、アイスクリーム……
同店の看板メニューは「コーヒーラーメン」。なんとも名前だけでお腹いっぱいになるネーミングだが、これを目当てに、関西や九州どころか韓国からも客が訪れるというから驚きだ。
何を隠そう記者は、数年前にも取材で「亜呂摩」を訪れており、コーヒーラーメンの破壊力は織り込み済み。完食する自信がなかったので、今回は編集者と中学生の息子を連れだって、再びこの店を訪れた。
京成線・お花茶屋駅から徒歩10分のところにある「亜呂摩」は、昔ながらの個人経営の喫茶店だ。壁に貼られた、同店を紹介するスポーツ紙の記事や芸能人のサイン色紙。コーヒーを練りこんだ「コーヒー麺」(1袋300円)を販売する、片隅のショーウィンドウ。何もかも、以前と変わらない、懐かしい光景だ。
壁に掛けられたタレント・石塚英彦氏のサイン色紙には「まいうー」と書かれていた。数年前に食べたのはホットだったが、ご主人によると、その後もアイスも始めたという。
そこで今回は、その「アイスコーヒーラーメン」(700円)に挑戦だ。
程なくして出てきたどんぶりには、コーヒー色のスープに、ゆで卵、ベーコン、キウイフルーツ、アイスクリーム、サラミが載ったバナナ……。「切ったリンゴか?」と思ったのは、チーズだった。一見して、コーヒーでもラーメンでもないような具ばかり。かろうじてセーフな感があるゆで卵には、コーヒー豆が飾り付けられていた。キウイフルーツの上のナルトが、けなげにラーメンとして最終防衛ラインを保とうとしているかのようだ。麺はもちろん、コーヒーを練りこんだ同店のオリジナル麺である。
い、いただきます……。
麺をつまんで、ひとすすり。ミルクとガムシロップが入ったコーヒースープの甘さと苦み、そして強烈なコーヒーの香りが、麺と一緒に口の中に飛び込んでくる。
記者「ん? 以前食べたホットコーヒーラーメンは、スープがしょっぱかったけど、これは甘いですね。しかもコーヒーの香りが強くなっています」
ご主人「全員が美味しいという味を作るのは本当に難しいけど、常に改良を重ねてます。スープは、コーヒーラーメン用の特別ブレンドコーヒーです。食べているうちにアイスクリームが溶けて、スープの味がだんだん変化していくのも楽しんでください」
記者「食べているうちにスープの味が変わるラーメンって、なんかマンガみたいでカッコいい!」
記者が以前食べたホットコーヒーラーメンは、しょっぱいコーヒースープに、お好みでミルクやガムシロを足しながら食べる形式。「しょっぱいコーヒー」の違和感に負けてミルクやガムシロを足したら、もっとひどい有様になったが、当時は具材にハムやメンマが載っていただけ幸運だった。
ときどき、こうした具材を口に入れると、一瞬だが味覚が正常になる。先に具材だけを食べ切ってしまわないように細心の注意で食べ進め、なんとか完食したものだ。
しかしグレードアップしたアイスコーヒーラーメンには、そんな小細工は通用しない。救いになる味の具材はベーコンとサラミぐらいで、あっという間に食べ切ってしまう。残りのフルーツやアイスやゆで卵は、自己主張せず、スープ(というかコーヒー)の味をしっかりと引き立ててくれている。
ご主人「お好みで、粉チーズをかけてもいいですよ」
かけてみた。
コーヒーの風味豊かなスープと粉チーズが奏でる、理解に苦しむハーモニー。辛くなって、編集さんにバトンタッチ。
編集さん「ご主人、美味しいです! いや美味い! 本当に美味い!」
中学生の息子にも食べさせてみたが、麺を1本すすっただけでダウン。
息子「ま、まずい……」
あとはすべて編集さんが完食した。
店内には、まるでペンションのようにコーヒーラーメンに挑戦した客たちが書き残したノートが置いてある。
「美味しかった!」「深い味わい!」「クセになる!」
類の熱烈なメッセージが。みんな、大丈夫か?
ご主人によると、実はこの店には別の「裏メニュー」もあるのだとか。
記者「いったい、何ですかそれは?」
ご主人「コーヒー茶漬け」
編集さん「それもぜひ食べたいです。出してもらえますか」
記者「(心の中で)マジかよ」
ご主人「今日は鮭を切らしていて、出せないんですよ」
記者「鮭が入るんだ……」
今回はコーヒー茶漬けを食べずに済んだ記者だったが、編集さんの「また来て、今度こそ食べましょう」の言葉に、今から戦々恐々……。コーヒーラーメンは、人によっては絶品料理なのかもしれない。
- 亜呂摩(アロマ)
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- 住所:東京都葛飾区宝町2-19-16
- 電話番号:03-3694-9156
- 営業時間:11:00~21:00
- 定休日:火曜・日曜不定休
(取材・文・撮影/藤倉善郎)