[岸博幸の経済メディア批評]

岸博幸が喝破!「日本人は起業も革新も向いていないは大嘘」

 経済をわかりやすく解説してくれることで定評ある、元官僚の岸博幸・慶應大学教授に、日本経済の現状を聞いていく短期集中連載。今回は、日本人のクリエイティブ性の高さを、“エロ”という指標から解説してもらった!

――このたび、DMMがニュースサイト運営に乗り出すことになりました。

岸 DMM、勢いありますね。そもそも、日本のAVと風俗産業は世界でも最高峰です。アダルトのクオリティの高さに、外国人はみんなびっくりしていますよ。

――外国人から高く評価されるポイントは、どこなんでしょうか?

岸 やっぱり日本人って非常にクリエイティブで、イノベーションを作り出せるんですよ。それが明確に現れている1つがエロだと思います。

たとえばAV動画だけを見ても、ジャンルも細分化されて、バリエーションも多彩。そもそも「日本人は真面目」だとか、「大企業が好き」だとか、「イノベーション(革新)は起こせない」なんて言われていますけど、あんなのは大嘘ですよ。断言しますが、日本人はクリエイティブだし、起業もできるし、イノベーションも起こせるポテンシャルを持った人種だと思います。この考えには自信があります。

デリヘルの店舗数>セブンイレブンの店舗数

――では、なぜ正反対なイメージができあがってしまっているんでしょう?

岸 それは皆が大企業ばかりを見ているから。だいたいそうしたことを吹聴しているのが、日経新聞などのメディアです。ぼくは日経新聞って、非常に偏った新聞だと思っています。脱線しますが、日本の新聞のいくつかは、政府発表をそのまま記事にして載せているだけの人民日報みたいなもの。そのトップの記事は、大企業の話ばかりなんですよね。でも実際には、大企業なんていうのは日本の全企業の1%くらいでしかないんですよ。

――そのたった1%を基準にして日本経済新聞は記事を書いていると……

岸 そうなんです。じゃあその大企業っていうのがどれだけすごい組織なのかと言えば、だいたいの経営者がエリート育ちなんですよ。有名大学を出て、就職当時の人気企業に入ってという人ばかり。その成れの果てが取締役です(笑)。こういう方々の行動パターンというのは、残念ながら私がいた役所と一緒です。当然、新しいことをするのには向いていない〝前例主義〟で仕事を進める人たちです。イノベーションというのは、前例がないことをすることですから、イノベーションが起こるわけがないんですよ。

――そもそもイノベーションが起こせるわけがない大企業だけを基準にしているから、日本人はイノベイティブではないというイメージになっているんですね。では、他にも日本人がイノベイティブでクリエイティブだとする例はありますか?

岸 コンビニで一番シェアが大きいのはセブンイレブンですよね。そのセブンイレブンの店舗数はどれくらいだと思いますか?

――2万くらいでしょうか?

岸 近いですね。実は約1万6500店舗あるんですよ。これってすごい数ですよね。じゃあこれがすごい数だとした場合に、風俗のある業種は、もっとすごいんですよ(笑)。

――デリヘルですか?

岸 そう、デリヘルです(笑)。役所的には「無店舗型性風俗特殊営業」。その中でも「派遣型ファッションヘルス等」と呼ばれる業態です。これは届け出されているものだけで1万8800軒。つまり日本最大のコンビニ以上に、日本にはデリヘル店があるんです。

もちろんデリヘルはセブンイレブンとは違って1つの企業が複数店舗運営しているケースもあるので、多少割り引かなきゃいけない部分もありますが、風俗業界ではこれだけの起業がされているということ。しかもデリヘルは、クライアントのニーズに合わせて、学生専門とか熟女専門とか、多彩なバリエーションがあるじゃないですか。こういう世界を見ると、日本人もクリエイティブなことや起業ができるポテンシャルを持っていると思うわけです。

――エロ以外だと、どんな例がありますか?

岸 私が関わっている音楽業界、エイベックスもそうですよ。エイベックスには、いわゆるエリートはほとんどいません。それなのにというか、だからこそなんでしょうね、音楽レーベルなのにBeeTVというプラットフォーム事業を始め、それなりの成功を収めています。証券や太陽光発電を行っているDMMや、レンタルビデオ事業をベースにしてマーケティング事業で成功しつつあるTSUTAYAもそうですよね。

「政府は余計なことをしなくていい」

――そう言われてみると、起業やイノベーションは少なくないですね

岸 クリエイティブなことでいうなら、古い業態と思われがちなテレビだって頑張っています。例えば僕がレギュラーで出ている日本テレビの『有吉反省会』。この番組では世間的にはあまり有名ではない人間をゲストに迎えて、15%の視聴率を取っています。現場が頑張って前例にないことを考えて、上層部がOKすれば、そういったイノベーションが起こせるんですよ。

岸 でも大企業中心の視点でしか書かない日経新聞からすれば、日本人はイノベーションが起こせない、ということになる。それで政府が余計なことをし始めちゃう。

――では、そんな政府に岸教授から政策面での提言はありますか?

岸 余計なことはしなくていいと思います。でも、もし今行っているクールジャパンで成功したいなら、エロをもっと海外に出せと言いたいです。今でもそうとう出ていますけどね。もっともっと、頑張れ! これは提言というより、エロ業界を応援したい気持ちですね(笑)。

岸博幸(きしひろゆき)
1962年生まれ。一橋大学を卒業後に通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院にてMBAを取得した。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、第1次小泉純一郎内閣の竹中平蔵・経済財政制作担当大臣の補佐官に就任。現在は、慶應義塾大学教授やエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問。
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