[架神恭介の「よいこのサブカル論」]

6年間のひきこもり生活から内定ゲット!「世界一即戦力な男」に密着

 世の学生たちが就活の厳しい現実に喘ぐ中、元ひきこもりという経歴にもかかわらず「世界一即戦力な男・菊池良から新卒採用担当のキミへ」なる上から目線のサイトをヒットさせて悠々と内定をゲットし、時の人となった菊池氏のことはいまだ記憶に新しいかもしれない。彼の成功劇はドラマ化し、さらに書籍化まで果たした。

「満身創痍です。自分の持ってるものを全部出しきった」

 その彼の出版記念イベントが9月21日、阿佐ヶ谷ロフトにて開かれた。イベントタイトルは「ひきこもりが阿佐ヶ谷にやってくるYAH!YAH!YAH! 〜浮気なきみにダイヤルアップ接続〜」。氏がサイトをヒットさせ成功するまでの、ひきこもり時代の赤裸々な過去を明らかにしていくという痛々しいイベントだ。

 イベントでは菊池氏の他に4人もの登壇者が登場。「一緒にCDを作った」「一緒に小説を書いた」という創作仲間たちから、「はてなダイアリーでやり取りをしたことがある」「知人の知人」というほとんど他人のような者たちまでバラエティ豊かな人材が菊池氏の脇をガッチリと固めてイベントはスタートした。

 菊池氏の中学不登校時代の通信簿を皮切りに、中学時代の卒業文集や卒業アルバムの写真、ひきこもり時代に書いたポエムなどが次々と明かされていく。が、通信簿は5段階評価で3が多く、卒業文集やポエムも今の菊池氏とあまりセンスが変わらず、本人は恥ずかしがっていたが、客観的に言って痛々しさに欠けた。

 また、ひきこもり時代の日記も公開されたが、「10月6日 何かしてた」「10月8日 フレディvsジェイソンを見た」などの短文が続くばかりで滅茶苦茶つまらない。しかし、ただのひきこもりが面白い長文日記など書けるはずもないので、これはある意味、リアルな記述だと言えるだろう。

 客席からの「もっと鬱屈した思いや邪念がより固まった物はないのか」という声に応えて、菊池氏は秘蔵の中学二年生時代のアイデアノートを披露したが、これもさして恥ずかしいものではなく、いたたまれない気持ちを求めて来場した観客はやや肩透かしを喰らったかもしれない。

 筆者の私見では最も痛々しかったのは氏がR-1ぐらんぷりに出場したときの予選映像で、これは今でもYoutubeで見ることができる。

 登壇者の一人で、菊池氏の「知人の知人」だという女性は終始所在なさげな様子で黙ってビールを飲んでいたが、最後に感想を求められて、「新しい世界を見ることができて、とても楽しい時間でした」という彼女の一言をもってイベントは締め括られた。

 イベント終了後、筆者が菊池氏に今日の所感を尋ねたところ、氏は「満身創痍です。自分の持ってるものを全部出し切った。もう言い訳はきかないんで、今日のイベントは新たな価値を作り出していくターニングポイントだったと思います」という、よく分からないふわふわしたことを述べて、そそくさと消えていった。

「知人の知人」の女性は、無人の客席で困惑した面持ちのまま煙草を吸い続けていた。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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