"逆ギレ老人"で高齢者犯罪増加…精神科医「歯止めが利かず暴走する」

攻撃的でキレやすい――殺人事件も

 9月半ば、福島市内の養護老人ホームで、入所者の66歳男性が同じく入所者の71歳男性を殴り殺すという事件があった。昨今のニュースでも、暴行、強盗、万引きからストーカーやセクハラ行為など、高齢者の素行の悪さがやけに目立つ。

 実際、ここ15年ほどで65歳以上の高齢者犯罪が急増中なのだ。高齢者の数そのものが増えているという背景もあるが、高齢者人口10万人あたりの犯罪発生率で見た「犯罪増加率」は、高齢者の「人口増加率」をはるかに上回っている(法務省発表資料より)。

 犯罪行為まではいかなくとも、公共の場や街で、「いまどきの老人たちは何だかおかしい」と感じることは多いのではないか。攻撃的でキレやすく、傍若無人で横柄な態度、頑固な執着を見せるクレーマーぶり、公衆の面前でためらいもなく怒りに身を任せる感情爆発は“モンスター”そのものだ。

 では、こうした「モンスター老人」が増殖する理由とは何なのか?

世の中の“嫌老ムード”も高齢者たちをキレさせる

 人間は、理性や感情から衰えていくという。人間の脳で最初に老化(萎縮)が始まるのが大脳半球の前方にある「前頭葉」である。ここは理性、感情、意欲、思考など、最も“人間らしい精神活動”を司る部位だ。前頭葉が萎縮(=神経細胞が減少)すると、「感情抑制機能の低下」「判断力の低下」「性格の先鋭化」「意欲の低下」などの現象が見られるようになる。

 療養型病院で高齢者医療に携わっている、ある精神科医は言う。

「意欲低下ですっかり“枯れてしまう”ような人がいる一方で、理性の歯止めが利きにくくなって、人間関係で暴走する高齢者も多いですね。とくに、本来持っている性格の特徴がより際立ってきますので、もともと偏屈なところがある人はますます偏屈に、自己中心的な人はますます自己中に……という傾向があります」

 しかし、「脳の老化」だけでは、近年になってモンスター老人が急増していることの説明がつかない。前出の精神科医は続ける。

「年長者を敬う文化が失われている時代背景があるでしょうね。最近では“老害”という言葉に象徴されるような高齢者叩きも、ネット上だけのものではなくなりつつあります。また、“いつまでも元気に、若々しく”というアンチエイジング・ブームも、裏を返せば年寄りを嫌う価値観の表れです。いわば“嫌老”の思想が世の中を支配している。現代は、高齢者が自己愛を満たしにくい社会なんです」

 自己愛とは精神分析学の用語で、簡単にいえば「我が身のかわいさ」のこと。人間なら誰しもが持っているもので、この自己愛や自尊心が満たされないと、不満や不安が募り、問題行動が多くなるのだという。

 2013年には、日本の高齢者人口の総人口に占める割合が初めて25%を超え、4人に1人が高齢者という現状。この割合は今後も上昇を続け、20年後には33.4%、3人に1人が高齢者になると見込まれている。

“モンスター老人”の問題は、まだまだ序章なのかもしれない。

(文/相川英里子)

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