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「機動戦士ガンダム」に学べ!? スコットランドから始まった独立ブーム

 メル・ギブソン主演の映画『ブレイブハート』は、1995年のアカデミー賞を受賞した傑作。ご覧になった方も多いだろう。13世紀末スコットランドを舞台に、実在の人物ウィリアム・ウォレスのイングランドとの闘いを描いているが、とにかくイングランド人の悪逆非道ぶりの描写が凄まじい。見た人は絶対にスコットランド派になること請け合いだ。実際、「この映画の影響で1990年代からスコットランド独立の機運が盛り上がった」との指摘もあるほど。しかし先日、世界注視のなか行われたスコットランド独立の是非を問う国民投票の結果が、「英国残留」となったのも周知の通り。

 わざわざ現地へ乗り込んでいった「沖縄独立」を掲げる活動家の皆さん(注1)は意気消沈だろうが、まだまだ世界には独立を巡る火種が残されているのも確か。スペインのバスクやカタルーニャ、ロシアのチェチェン、カナダのケベック、インドのカシミール、そして中華人民共和国のチベット、東トルキスタン、内蒙古……そして今まさに、自治を求めて共産党と対峙している香港などなど。

 それぞれ理由も歴史的背景も違うのだが、世の中には「革命」とか「独立」という言葉に無条件で興奮する人たちが一定数いる。筆者の部下など「スコットランド独立支持!」と興奮していたが、理由は特にない。さすが小泉政権に投票し、次に民主党に投票するような男である。要は騒ぎたいだけのB層(注2)だ。

『機動戦士ガンダム』から学ぶ独立運動

 フィクションの世界に目を向けても「独立」は人気あるテーマで、多くの作品がある。小松左京の小説『日本アパッチ族』、井上ひさしの『吉里吉里人』(注3)、漫画ではかわぐちかいじ『沈黙の艦隊』、そしてアニメ『機動戦士ガンダム』(注4)……宇宙に多くの巨大スペースコロニー(人工衛星型植民施設)が浮かぶ時代、その一つがジオン公国を名乗り、地球連邦に対して独立戦争を仕掛けてくる。忘れられがちだが、ガンダムは独立を巡る物語なのだ。

 ところで独立に必要なものは何か? ものすごく乱暴に言い切ってしまえば、母国から離れても国民を飢えさせない経済力、様々な圧力を跳ね返す軍事力、その二つに不安があった場合にすがる他国、特に軍事大国からの承認である。ジオン公国×地球連邦は第三国のいない戦いなので、問題は経済力と軍事力。経済に関しては作品中に詳しく描かれないが、軍事力では史上初めてモビルスーツ(注5)を開発し、当初は圧倒的に優位に立つ。これほどの技術力があるということは、経済力の裏打ちもあったのだろう。不安は資源のみで、これは地球の特定地域を早めに占領することで解決。ジオン公国は大きな犠牲を出しながらも、物語の最後では地球連邦と休戦協定を結ぶ。つまり独立国家としての承認は勝ち取ったのだ。

 スコットランドはどうか? 経済的には北海油田権益の自国独占を狙ったが、使用通貨に目途が経っていなかった。また軍事的には今も世界有数の軍事力を誇る英国(スコットランド域内の核兵器の引き上げも示唆)の敵ではない。通貨と安全保障の不安からEUへの参画も考えていたようだが、内部で独立問題を多く抱えるEUは渋っていた。あまり報じられていないが、英国および西側陣営がもっとも恐れていたのはロシアへの接近。しかしスコットランドに世界を大混乱に陥れる選択は無かった。そして英国残留が決まるのだが、結果的に強い発言権とさらなる自治権を勝ち取ったわけで、むしろスコットランドの老獪な強かさすら感じさせた。

 現代(現実)社会では、ジオン公国のように圧倒的軍事力での独立という形にリアリティはない。時に軍事大国をも翻弄する高度な政治力と、国際社会を味方につける情報発信力が必要になる。独立を勝ち取りながらも、さらなる戦争の誘発を狙ったり

「……認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを」

 などと青臭く粋がるシャア(注6)のような男がいては、逆効果でしかないのだ。

(注1)なぜか沖縄人が少ない。またチベットや香港などの独立に関しては全く触れようともしない。
(注2)ひらたく言うと無教養で流されやすい層。
(注3)新潮文庫版、発売中。
(注4)本稿では最初のTVシリーズと劇場版三部作が対象。
(注5)ガンダムとかザクとかドムとかのあれ。
(注6)シャア・アズナブル。主人公アムロのライバル役だがキザなカッコ良さで人気No.1キャラ。しかし言動に自己中心的な幼稚さが目立つ。

著者プロフィール

コンテンツプロデューサー

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。DMMニュースではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ

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