SDカードで韓流コンテンツが北朝鮮に
一部のファンを除いて、日本ではすっかり勢いを失った感のある「韓流」だが、実は北朝鮮で密かにブームになっていることはあまり知られていない。
日本のテレビでも目にする機会が多いと思うが、北朝鮮のテレビが日常的に伝える内容といえば、「偉大なる金正恩元帥様がどこそこを訪れて現地指導した」だの「ナンタラ記念で軍事パレードが開催された」だの「我が国の領土に0.001mmでも侵犯すれば無慈悲な攻撃で対応する!」など、100%北朝鮮当局の宣伝、いわゆるプロパガンダである。
もちろん、北朝鮮にとっては敵国である「韓流コンテンツ」がこれらのメディアを通じて韓流が伝えられるわけではない。また、北朝鮮は世界でも有数の情報鎖国であり、韓流に限らず外国文化の流入を規制しており、外国の情報に触れることは違法だ。最近では韓流を見て韓国に憧れて北朝鮮を離れたという脱北者も多く、韓流が広がることは北朝鮮を統治するうえで誠に都合が悪い。コンテンツに触れたり売買が北朝鮮当局に発覚すれば、政治犯収容所行きや公開処刑もありうる。
にも関わらず、北朝鮮の市民達はこっそりと韓流を楽しむ。この動きについて金正日の長男である金正男(通称:俺たちのマサオ)は、こう述べている。
「北朝鮮の若者達は今、韓流と資本主義の風にすでに染まっています。北朝鮮政権と関係なく、自分たちの世界に住んでいます。もちろん厳しい統制を避けながらですね…」(五味洋治著『父・金正日と私 金正男独占告白』より)
しかし、厳しい統制の下で韓流はどのようにして北朝鮮に入り込み、そして楽しまれているのだろうか? 川をひとつ挟んだ中国と北朝鮮の国境では、ありとあらゆるモノが売買され、商売が独自に発達してきた。そこで商人が目を付けたのが、韓流コンテンツだ。
「これを北朝鮮に持ち込んだら、ワンパターンでつまらないテレビに飽きている人たちの間で売れるんじゃないか」そう思ったことは容易に想像できる。そして、彼らは、古くはCD—ROMから始まって、ハードディスク今ではSDカードに違法コンテンツを記録し北朝鮮内に持ち込んだ。それがさらにコピーされ広まったというのが実態である。
まるで新宿・歌舞伎町の無修正DVD?
興味深いのは、ここで大きな役割を果たしたのがデジタルメディアだ。VHSテープやカセットテープなどのアナログメディアと違い、デジタルメディアは持ち運びもコピーも容易だ。ハードに関しても、中国の中古品などが十分にあり、カネさえあれば入手可能。「韓流のデジタルコンテンツ」と「中国のデジタルハード」という二つの条件が揃ったことが、北朝鮮の韓流ブームの大きなきっかけとなった。今や、韓流だけなくハリウッド映画やカンフー映画などもこっそりと楽しまれている。
さて、ここで少し思い起こして欲しい。日本でもパソコンやネットが普及し始めた頃、同じようなプロセスで違法コンテンツ、とりわけアダルトコンテンツが広まったことを。北朝鮮で違法コンテンツは、北朝鮮のヤミ市場などで売買されるが、これはまさに新宿歌舞伎町で横行する無修正DVDの販売と似たようなものであり、取り締まり側とバイニン達のやり取りもイタチごっこになっている。方法は違えど、北朝鮮のヤミ市場と新宿の歌舞伎町で同じ光景が北朝鮮で繰り広げられているのである。
デジタル社会と最も無縁と思われている北朝鮮の人々が、デジタルを通じて意識を変えるーなかなか愉快な話ではないか。
著者プロフィール
デイリーNK東京支局長
高 英起
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など
(Photo by KCNA)