米企業自演説も…香港民主化デモで「チャットアプリ活用」はウソ?

数千人のデモ隊がいる場所でも利用者ゼロ!?

 香港の民主化デモでは、学生や市民による主要幹線道路の占拠が2週間以上続き、長期化の様相を呈している。梁振英行政長官は12日、「政府はデモ参加者に対して、これ以上ない寛容な態度で接している」と発言、自身の辞任も重ねて否定した。

 膠着状態が続くなか、今回のデモの様子を伝えるニュースのなかで、一気にその名を挙げたチャットアプリがある。

 米企業・オープンガーデンが開発した「ファイヤーチャット(FireChat)」だ。このアプリは、 近接する端末同士をBluetoothで接続し、メッシュネットワークという接続網を構築。インターネットを介することなく通信が可能になるため、デモの封じ込めを目的とした当局によるモバイル通信遮断が噂されていた香港で、一気に利用者が増加していると報じられたのだ。ウォール・ストリートジャーナルやブルームバーグをはじめ、日本でもIT系ニュースサイトがこぞって報じたのだ。

 今回のデモの中心的組織のひとつ、学生運動組織「スカラリズム」のリーダー、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏がダウンロードを呼び掛けたことで利用者が広がりはじめ、オープンガーデンによると9月28日午前から29日午前までの間だけで、香港でのダウンロード数が10万に達したという。

 10月初旬、現地取材にあたっていた筆者も、デモの状況をリアルタイムで把握しようとファイヤーチャットをダウンロード。デモの中心地、金鐘(アドミラルティ)にある立法会総合ビル近くで利用を試みた。しかし、画面には「You are the only one here」と表示されるのみだった。

 ファイヤーチャットを起動させたまま、数千人のデモ参加者が座り込みを続けていたコンノート・ロードを30分ほどかけて歩いてみたが、3、4人とつながる程度だった。他にも香港空港や中環(セントラル)のIFCモールなど、往来の盛んな場所でも試してみたが、やはり「You are the only one here」のままであった。

参加者の約半数が「そのアプリを知らない」!

 不思議に思い、デモ参加者十数人に、ファイヤーチャットの利用状況について訪ねてみた。結果、約半数が「(アプリ自体を)知らない」と回答。さらに「知っているがダウンロードしていない」「香港デモ現場でファイヤーチャットの利用者が増えているというネットニュースを見て、ダウンロードした」と答えが続いた。報道とは違い、実際に利用いているユーザーはとても少ないようにみえた。デモ参加者によると、参加者同士の連絡手段については、LINEやWhatsApp、Facebookメッセンジャーなどが多いとのことだった。

 一方、このアプリのもう一つの機能である、ネット接続によるチャット「グローバルモード」を利用してみた。すると、香港デモに関する多くのスレッドが立てられていた。しかし、投稿者の多くは海外在住の中国人や華人であり、やはり報道を見てダウンロードしたという人が多いようだった。

 アラブの春では、FacebookやTwitterが民主化運動の拡大に大きな役割を果たしたとされるが、今回の香港デモにおけるファイヤーチャットの存在感は、「利用者が極めて少なく、報道されているような現象は起こっていない」というのが現地での印象だ。むしろ、「香港デモに乗じた巧妙なPRだったのでは」とすら勘ぐってしまう。

(取材・文・写真/吉井透)

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