"中年童貞"は人間的に問題!? 時代錯誤な恋愛観と女性像

過剰な「女叩き」と「処女信仰」で自己正当化

 ノンフィクションライターの中村淳彦氏による『ルポ・中年童貞』(幻冬舎plus)が、2ちゃんねるを中心に「ただのレッテル貼り」「個人的な差別感情の垂れ流しだ」などと批判を浴びている。同連載は、「30歳を超えて性交未経験の中年童貞に、大きな人間的問題が潜んでいる」として、その存在と実態をリポートしている。ネット住民らの反感を買う一方で、「いやいや、割と真実なんじゃ?」「正直、これはあると思うわ」といった賛同の声も少なくない。Twitterでは津田大介氏が「とても読ませるルポ」と感想を述べ、美術家の会田誠氏も「面白かった」と記事を紹介している。

 そこで筆者のまわりにいる、女性と交際経験がなく、かつ風俗を含めた性経験のない「中年童貞」たちの言い分を実際に聞いた。

 SEとして働くA氏(45歳)は「交際経験はもちろん、女性の手に触れたこともない」という真性童貞だが、実物は決して第一印象の悪くない「フツメン」。しかしこのA氏、とにかく女性を敵視しているようだった。

「女に飯をおごって会話して機嫌をとって、非童貞はそこまでしてヤリたいものですかね? 僕からしたら、無駄なお金と時間を費やしてご苦労さんって感じです。女は感情的だから、やりとりも面倒だし」

 普通、性行為は自分の好きな相手とするもので(少なくとも嫌いな相手とはしない)、そうした相手と過ごす時間やそのための出費を「無駄」と感じる人はあまりいないと思うが……。発言内容からもわかるように、A氏が語る女性像はとにかくステレオタイプ。ネットの書き込みに汚染されまくった仮想の”脳内女”と戦っているだけにしか見えない。

 もう一人の中年童貞、B氏(39歳)もパッと見の印象は悪くない。イケメンでこそないが、長身痩躯で、しかも医師。恋愛・婚活市場ではむしろ引きが多そうな存在だが、話してみると、重度のコミュ障と処女崇拝を抱えていた。

 病院勤務に人間関係で挫折して、「いまは週3日、非常勤医師のスポットバイトで食っています」と語るB氏。この生活は5年目で、週に4日の休日はおもにネットを見て過ごしているという。

 恋愛や性行為をしたいという気持ちはある。しかし、「処女は絶対条件。優しくて清楚な、新垣結衣みたいな子がいいです」と言う。若くてかわいい処女にこだわる理由を、B氏はこうまくし立てた。

「トイレで手を拭くタオルと同じですよ。たくさんの人が使った後に使うのは嫌でしょう。真新しい処女には価値があるし、中古品は中古品の価値しかないです」

脳内だけで完結している恋愛観と女性像

 中年童貞について、「一括りには言えないのですが、よくも悪くも自己完結している人が多いですね」と語るのは、『男子の貞操』(ちくま新書)の著者で、望まない童貞を卒業するための学校「ヴァージン・アカデミア」を主宰する坂爪真吾氏だ。

「彼らの意識や価値観は、『結婚するなら処女』や『自分がモテないのは収入が低いからだ』といった、旧来型のいわゆる”モテない男”が抱きがちな典型的な思い込みにどっぷり浸かっているように思えます」(坂爪氏)

 男女間の問題に限らず、意識や価値観が変わるきっかけは何かを「体験」することだ。童貞をこじらせた中年男たちが変わるにも、同じことが言えるかもしれない。

(文/神田川めぐる)

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