[「北朝鮮人民生活リポート」デイリーNK東京支局長]

北朝鮮発:白ロムと飛ばし携帯が蔓延する理由

取り締まる側にも甘い汁。これぞまさにwin-win!?

 前回、「当局の傍受から逃れる驚きの方法とは」で北朝鮮の最新携帯情報について書いたが、今回は当局でさえ取り締まりに頭を悩ます北朝鮮の携帯裏事情について書いてみようと思う。

 そもそも北朝鮮で携帯電話が拡散したきっかけは、中朝国境での通話が出発点だった。一本の河を隔てて隣接する地域ゆえに、中国の電波網のエリアが北朝鮮国内もある程度カバーしていた。この電波網に目を付けた貿易商、また中国や韓国に親戚(脱北者)を持つ北朝鮮人民が、中国キャリアの携帯電話をこっそり持ち込んで利用してきた。

 もちろん、これは違法通話だが、商売だけでなく仕送りなど生活に直結する通話が中心であることから、当局も根絶はできなかった。国境付近の約7割の住民が、携帯電話を使用していたというレポートもある。

 その後、紆余曲折を経て2008年に北朝鮮当局主導の携帯サービスが開始されると、貿易会社の社員や、朝鮮労働党や朝鮮人民軍の幹部、そして富裕層を中心に普及しはじめた。韓流ドラマのなかで、韓国の若者達が当たり前のように携帯電話で通話するシーンが流れるのを見た北朝鮮の若者は「携帯文化」に憧れ、大学生をはじめとする若者の間でも急速に広がり、誰もが憧れるツールとなる。

携帯サービス加入に1~3か月かかる

 ただし、北朝鮮で正規の携帯サービスに加入するためには、非常に手続きが面倒で時間もかかる。まず、当局のサイン付き申請書を「逓信管理局」に提出しなければならないが、実際に使用できるまで1か月から3か月もかかる。こういった面倒な事情に目を付けて登場したのが「携帯ブローカー」だ。

 ブローカーを通じて携帯電話を入手すると、価格の約20%を手数料に取られるが、1週間から半月ほどで機器を入手できる。そのからくりはこうだ。

 北朝鮮の携帯電話はプリペイドカード式だ。ブローカー達は、あらかじめ携帯を管轄する部署に賄賂をわたして、数十台の携帯電話、つまり「白ロム携帯」を確保し、それを販売するのだ。また、「幹部の特権」を利用して、家族の名義で複数の携帯電話に加入し、これをブローカーに転売する朝鮮労働党の幹部達もいる。つまり「飛ばし携帯」である。市場では、合法的な「携帯電話修理業者」として看板を掲げながらも、裏ではブローカー達が卸ろした携帯の販売も行われている。

 こうなると、盗聴どころか本来の所有主さえ正確に突き止めることが困難であり、大きな問題が起きない限り、当局でさえも見て見ぬふりをせざるをえない。取り締まる側も「携帯違法ビジネス」の恩恵を被っているからだ。

サードパーティー製の周辺機器まで登場

 北朝鮮は、慢性的な電力不足であり、多くの家庭が中国製の家庭用充電バッテリーを所有している。しかし、正規の携帯電話付属の充電器はこのバッテリーに連結できない。そこで、中国からバッテリーを輸入する商人が、電気技師を雇って独自に充電器を開発してしまったのだ。

 非正規、すなわち「サード・パーティー製」の充電器である。この充電器は、自動車のバッテリーにも連結可能で市場でも爆発的に売れたという。このあたりの発想は日本では当たり前であり、北朝鮮人民も中国などからヒントを得ていると思われるが、それにしても彼らの商魂たくましい発想と想像力はなかなかのものである。

 北朝鮮は、「自主独立」を国家のスローガンとして掲げているが、国家経済として空文句になっている。その反面、本当の意味での「自主独立」の精神は、まさに一般人民のなかで脈々と受け継がれているのだ。

著者プロフィール

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など

(Photo by Joseph Ferris III)

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