[田原総一朗の朝から生激論]

【日中首脳会談】嫌中時代は終わり、習近平政権も日本寄りに|田原総一朗コラム

田原総一朗に「日中首脳会談」を訊け!

 11月10日に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議における日中会談が注目されている。2年前の尖閣諸島国有化以来、初の両国首脳会談となったわけだが、尖閣問題についてはおおかたの予想どおり、「進展」は微妙なところとなった。

 しかし、日中間で解決しなくてはならないことは尖閣以外にも山積している。今回の日中会談は、それらの解決への第一歩であり、その意味では成功といっていいだろう。

 両国関係者は、この会談を成功させるため調整に奔走してきた。特に今回の首脳会議にさきがけた、11月6日の谷内正太郎(やちしょうたろう)国家安全保障局長の訪中は象徴的だ。谷内氏はそれ以前の7月下旬に行われた福田康夫元首相と習近平国家主席の会談にも同席している。

 この会談は中国側からオファーがあり、福田元首相が安倍首相に打診したところ、「ぜひ行ってください」と言われて実現したものだ。谷内氏は内閣官房副長官補や外務事務次官を歴任した外務省のキャリア官僚であり、外交手腕には定評がある。特に中国には太いパイプを持っていることから、期待は大きい。

 実は、福田元首相と安倍首相はあまり仲がよくない。だが、日中首脳会談の実現は両国にとって最重要課題であることから、安倍さんがある意味、譲歩したのだ。

 一方で、中国も大きく変わろうとしている。今年の5月の超党派の日中友好議員連盟(会長・高村正彦自民党副総裁)のメンバーの訪中をはじめとして、多くの自民党幹部らが中国共産党の要人たちと会談している。彼らの訪中は中国側からの要請によるものだと聞いている。

 つまり、中国が日本との友好的関係をつくりたいと思い始め、態度を柔軟化してきているのだ。こんな重大なサインに気づかず、日本のマスメディアは相変わらず「嫌中」を煽っているが、今後は中国側の動向をさらに注視しなくてはならないと僕は思っている。

尖閣は「棚上げ」だが経済と環境問題の解決に全力を

 では、なぜ中国は柔軟になってきているのか。僕は、「習近平体制」の基盤が整ってきたことが背景にあると考えている。政権の基盤が弱ければ、対外的に強硬にならざるを得ない。内政問題がひと段落したため、日本との関係改善に乗り出す余裕が生まれたのだろう。

 そして、それには「抗日」的な愛国主義を採っていた江沢民元首席の存在感が弱まったことも影響していると考えられる。

 たとえば、中国共産党最高指導部メンバーだった周永康・前共産党政治局常務委員の事実上の粛清の例がある。2013年夏、周氏の汚職疑惑が報じられ、親族も含めて大がかりな調査と多額の資産の差押えが行われた。この周氏のバックには江沢民元主席がいたのだが、周氏を粛清できたのだ。ということは、中国共産党内の権力バランスに変化があったと考えていい。

 国内ではPM2.5などの環境悪化、国外ではチベットやフィリピンとの関係などさまざまな問題を抱えている中国にとって、日本の協力は不可欠だ。特に中国での日本企業の進出減少と公害対策について日本政府の助けを求めたい。

 また、日本にとっても、中国は大切なパートナーであり、連携は欠かせない。尖閣問題だけにとらわれている場合ではないのだ。日中間における問題を解決するにはまだまだ時間がかかるが、ひとつひとつ、個別の問題に対応していくことが大事だと思う。

田原総一朗(たはらそういちろう)
1934年滋賀県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、岩波映画を経て、東京12チャンネル(現テレビ東京入社)に入社。撮影中にインタビュアーの求めに応じて性行為に及ぶなど「突撃取材」で名を馳せ、水道橋博士から「日本で初めてのAV男優」と評される。原発報道をめぐって会社と対立、退社後はテレビ朝日系『サンデープロジェクト』(惜しくも終了)、『朝まで生テレビ!』のほかBS朝日『激論!クロスファイア』などで活躍。著書や共著も多く、『日本人と天皇 - 昭和天皇までの二千年を追う』(中央公論社)、『80歳を過ぎても徹夜で議論できるワケ』(角川書店)、堀江貴文氏との対談『もう国家はいらない』(ポプラ社)のほか百田尚樹氏との対談『愛国論』(ベストセラーズ)も14年12月に発売予定。

(撮影/佐倉博之)

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