危険ドラッグの使用に関連する事故や事件が急増中だ。法的な規制が追い付いていないことが蔓延の原因ともされるが、「このままでは、危険ドラッグだけではなく、あらゆる薬物が日本に広がる」と指摘するのは、10月に『警察と暴力団 癒着の構造』(双葉社)を上梓した元北海道警警部の稲葉圭昭氏だ。
氏は、銃器対策のエースとして活躍後、自ら覚醒剤を使用したことなどで有罪判決を受けて服役した経験があるが、「これからも自分と警察の罪と向き合っていく」として執筆を続けている。
ヤクザも認める「危険性」
危険ドラッグが他の薬物と比べて「危険」なのは、「手軽さ」だ。覚醒剤ほど高価ではないし、入手しやすい上に、今のところは罪も軽い。危険ドラッグに手を出すのは、「覚醒剤はコワいけど、ドラッグには興味がある」という若者が大半だろう。クラブかなんかで「ちょっとやってみる?」と誘われたりして、軽い気持ちでやってしまうのだ。
そもそも危険ドラッグは製造法もテキトーで、同じ銘柄でも品質は一定していない。覚醒剤や大麻の成分に似せた化学物質や頭痛薬、カフェイン、香料などを混ぜて作られているが、場合によっては覚醒剤の成分そのものが入っていることもあるという。混合された物の“相乗効果”で、死に至る場合もある。
「覚醒剤や大麻はいいが、危険ドラッグだけは使わない方がいい。マジで危険だから」と言うヤクザもいるほどだ。そうは言っても、最近の暴力団排除でシノギ(ヤクザが収入を得るための手段)が厳しくなっているから、危険ドラッグを扱うヤクザは、これからどんどん増えると思う。
そして、それは「覚醒剤の使用者が減る」こととイコールではない。覚醒剤中毒者のほとんどは危険ドラッグには流れず、今後も覚醒剤を使い続けるだろう。それほど覚醒剤は一度ハマったらなかなか抜け出せないものなのだ。経験者が言うんだから、間違いないよ(笑)
これはつまり、違法薬物に手を出す人間の全体数が増えるということ。今のところは日本における薬物の生涯経験率(1回でも違法薬物を経験したことがある者の割合)は1.5%程度で、国際的に見てもかなり低いのだが、これからはそうはいかなくなるだろう。
また、海外の犯罪組織から見れば、ドラッグに免疫がない日本人は「いいお客さん」だといわれている。不況とはいえ、まだまだ国際的にはカネ持ちの日本人は海外で大麻や合成麻薬などを喜んで買っている。以前から日本をターゲットにしている海外組織も多く、こうしたことからも日本に中毒者があふれるのも時間の問題といっていい。
一方で、警察の捜査も問題だ。パソコンを使うのが上手な警察官が「優秀な警察官」と評価される時代になってしまい、現場で情報を取れる捜査員がいなくなってしまった。だから検挙率の低下はガタ落ちしており、今では10人の泥棒のうち3人を捕まえるのがせいぜいである。
それに、ドラッグの捜査でも事故や事件を起こしている人間の逮捕が中心で、ブツ(ドラッグ)の製造や販売経路の捜査が後手に回っている。これは今に始まったことじゃないけど、使用者をパク(逮捕)ったら「終わり」じゃなくて、その背後をきちんと捜査するのが大切。
でも、そういう本質的な捜査をしたら干されるから、誰もやらない。時間もカネも人手もかかることは警察がやりたくない。薬物中毒者が減らないのは、そういうことも理由だろう。
「ちょっとならいいかな~」が命取りになる。「ダメ、ぜったい」だよ(談)
- 稲葉圭昭(いなばよしあき)
- 1953年北海道生まれ。東洋大学を卒業後、1976年に北海道警採用。道警本部機動捜査隊員、札幌方面中央警察署刑事第二課暴力犯係主任、道警本部銃器対策室銃器犯罪第二係長などを歴任。暴力団捜査、銃器捜査に力を注ぐ一方で、泳がせ捜査、おとり捜査など道警の違法捜査にも関与したことを自著で明かしている。自らは覚醒剤の使用や密売に手を染める。2002年に覚醒剤使用等の容疑で道警に逮捕され、2003年5月に懲役9年・罰金160万円の刑が確定。公判廷で警察の違法捜査について証言したことで注目を集め、出所後に上梓した『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)もベストセラーに。
(取材・文/坂口優)