相次ぐ映画出資詐欺、被害者が声をあげにくい理由

夢を与える映画業界はクリーンであってほしい(写真はイメージです)

 大ヒット映画『クライマーズ・ハイ』『血と骨』などの作品を手掛けた映画プロデューサー・若杉正明氏(50)が、5月、実際には制作に関わっていない映画への出資話を知人に持ちかけ、約3000万円を騙し取ったという疑いで詐欺の容疑で逮捕された事件があった。若杉氏はその後も約1億5000万円を同様の手口で詐取したとして再逮捕された(後者の事件については処分保留となった)

映画界ではいまだに口約束がメイン

 こうした映画出資に纏わる詐欺の話は、実は、映画関係者の間では珍しくないという。ある映画関係者によると、「映画がヒットしさえすれば、少額の投資で株式投資や先物取引よりも大きなリターンが得られる」ということ、そして何より、「芸能人を育てているというちょっとした優越感、パトロン気分に浸れる」ことが大きいようだ。

 そもそも映画界は、契約社会が成熟した今でも口約束がメイン。小さな作品ならば口頭だけで出資金を募るのが常識だ。大手映画会社でも企画先行で原作権契約が済んでいないうちに出資金を募ることもある。出資金を募り、企画が日の目を見ず、出資金を出資者に返還しなければ“詐欺”と騒ぎ立てられても文句はいえない。

「映画界のビジネスモデルに問題があるんですよ。通常映画製作ではカネを集めるのは制作会社。ここが余分なんです。企画を持ち込むだけのブローカーのようになっている。トンネル会社といってもいい」(映画関係者)

 映画製作は、基本的には制作会社が制作協力会社に発注する形を取る。制作会社が直接映画製作を行わないのには理由がある。

「制作会社の人間はたいてい映画プロデューサーという肩書きです。これが1億円の出資金を集めたとしましょう。でも下請けとなる制作協力会社には8000万円で発注するんです。募った出資金から1割から2割抜く。映画プロデューサーはこれだけで2000万円の儲け。デカいですよね」(前出・映画関係者)

 もっとも出資金から1割ないし2割抜かれた額で映画製作を引き受けた制作協力会社もまた1割から2割を自らの抜くことは映画界では常識のようだ。

「1億円集めた出資金を制作会社が2割抜いて8000万円。この8000万円で映画製作を請け負った制作協力会社が2割抜けば6400万円。この6400万円の予算で出資金として集めた1億円以上の収益を出せる商品、つまり映画ですね。これを作らなければならない。どうしても無理が出ます。でも当たると大きい。もしヒットしなくても出資者は映画製作にすこしでも関わったことで文句を言う者はほとんどいません」(同)

映画出資詐欺被害者が声を上げない理由とは?

 出資者が文句を言わないのには理由がある。前出の映画関係者が続けて語る。

「出資者に『愛人を出演させてやる』とか『主演女優と寝られるぞ』と最初にいいくるめるんですよ。だから出資して配当が出なくてもとても恥ずかしくて文句を言えない。もっとも映画製作が頓挫したなら、制作側は丸儲けとなる。最初から制作するつもりもないのに、映画製作をぶち上げる輩も少なくありません」(同)

 こうしたダーティーなイメージからか、映画制作に出資したものの、映画製作が頓挫して警察に駆け込んでもとりあってくれないという。2009年、映画製作に50万円出資した男が「詐取された」 と警視庁赤坂警察に捜査願いを出したAさんの場合、逆に赤坂署から「犯人呼ばわり」されて、捜査願いすら受け付けて貰えなかったという。

「映画制作の出資の話が来ても、本当に制作する予定があるのか。そこから調べなければならない。若杉氏の事件も、自宅すら持っていないという彼でも1億円以上のカネが集まった。過去の実績が目に見えてわかるからでしょう。映画業界全体がもっとカネに綺麗にならなければ、映画そのものが衰退の一途を辿る。映画人として寂しい限りです」(同)

 若杉氏の事件以降、その動向が伝わってこないのも、「立件化で名前が出ると困る人が多いからではないか」(同)という。この事件が日本映画界の闇にメスを入れることになるか。今後の動きを注視したい。

(取材・文/秋山謙一郎 Photo by Kennosuke Yamaguchi via Flickr)

ピックアップ PR 
ランキング
総合
社会