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「解散風」で政治家とオヤジジャーナルの結託が露わに!?|プチ鹿島コラム

「解散風」で政治家とオヤジジャーナルの結託が露わに!?|プチ鹿島コラム


 それにしても「解散風」という言葉。そこに漂う煽りとソワソワ感。まさに政治家とオヤジジャーナルが結託している雰囲気を、これだけ象徴している現象はないと思うのです。

 新聞各紙は社説では神妙な顔をしてこう言います、「政局より政策を」と。しかしいざ「解散風が吹いたぞー」となると同じ新聞の政治面ではウキウキしている。興奮を隠せず文字が躍っている。これはオヤジジャーナルの業である。

安倍政権はメディアコントロールが巧妙

 政治家側も解散風というお祭り(まつりごと)ムードによって細かい懸案なんてどうでもいい空気にしてしまう。とくに安倍政権はメディアコントロールが巧妙と言われている。最近出版された『安倍官邸と新聞「二極化する報道」の危機』(徳山喜雄・集英社新書)を読むと、これまでの首相は原則として日本のメディアからは単独インタビューをうけず、共同記者会見の方式をとってきたが、安倍首相になってからは、それが改められ、在京の新聞各紙と単独会見し、重要ニュースを1社だけに提供するようになったという。その時期については、《首相や官邸の判断になり、首相の考えや思いを強くアピールする場として使われている》という。

 首相サイドの思惑をわかっていたとしても、各紙は当然でかでかと報じる。首相言うところのフクシマのアンダーコントロールは眉唾だが、メディアのアンダーコントロールは成功しているのかもしれない。

 なかでも読売新聞の政権情報はかなり詳しいと評判だ。読売に載った政局や政策情報が既成事実になるパターンが特に多い。たとえばこの夏に起きた石破茂を自民党幹事長から外そうとした動きをもういちど振り返ってみよう。

 9月初めの内閣改造で「安倍首相は石破幹事長を新設の安保相に就け、閣内に封じ込めるつもりだ。すでに直接打診した」という記事が8月早々から出始めた。

 象徴的なのが読売の「石破幹事長交代へ、安保相に起用の意向…安倍首相」(8月10日)という記事だった。そこでひとつの流れができて8月18日には遂に「石破氏が安保相受諾を検討 幹事長に岸田氏ら浮上」と共同通信が伝えた。この時点で石破氏は何も表明していなかったのだが「石破、幹事長交代」の話題を定期的に流すことによって既成事実にしたのだ。石破サイドの情報戦の弱さを差し引いても、安倍サイドの上手さだけが目立った。

 そして今回の「解散風」だ。つい先日まではあくまでひとつの説だったものが、いきなり先週具体的に浮上した。きっかけはまたしても読売。まず11月9日の記事。
《安倍首相が、消費増税を先送りする場合、年内に衆院解散・総選挙に踏み切る検討を始めた。》
 そして11月11日には、
《安倍首相は10日、消費税率の10%への引き上げを先送りする場合の衆院解散・総選挙の日程について、早ければ、一連の外交日程を終えて帰国する17日から数日以内に解散する方向で検討を始めた。》
と書いた。報告のようにも読める。政権によほど食い込んでいるのだろう。同じ11日の記事で「早期解散 広がる憶測」と、あくまで憶測を伝えた朝日新聞がいじらしく思える。

 ただ、ここまでくると逆に親密なメディアを駆使して「ブラフ」を流しているのでは? という勘繰りも成り立つ。

 サンデー毎日(11月23日号)は、「党内の空気を引き締めるには『解散の流布』が効果的だ。議員バッジがかかっているから引き締まるし、余計なことも言わなくなる」との「安倍首相に近いベテラン議員」のコメントを載せ、《こう見ると「年内解散」の最初の発信は、安倍首相、菅官房長官、谷垣幹事長らによる、党内引き締めのための”煙幕解散説“というのが真相のようだ。》と解説している。

 しかしすでに伝えられているとおり最初はブラフだったはずの解散が、いつの間にかマスコミで騒がれることにより「その気」ムードになってきている。

 ここらへんは大変興味深い。要はみんな浮かれているのかもしれない。


著者プロフィール

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)。

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