元祖毒舌王復活! ヒロミが再ブレイクできた3つの理由|ラリー遠田コラム

オフィシャルブログより

【ラリー遠田のお笑いジャーナル】

 2014年、ヒロミが完全復活した。1990年代から2000年代前半にかけて活躍し、最盛期にはレギュラー12本を抱えながら、忽然とテレビの世界から姿を消していた男が、約10年の沈黙を破り、今年に入ってからバラエティ番組に数多く出演。昔と変わらないキャラクターで堂々とした立ち振る舞いを見せている。

 ヒロミはなぜ消えていたのか? そしてなぜ復活できたのか? その真相については本人がテレビでたびたび語っているが、本当のところははっきりしない。活字メディアでもさまざまな噂が飛び交ってはいるが、決め手になるような定説はないようだ。

 ここでは、芸能界のウラ事情はさておき、2014年現在のテレビバラエティ空間の中で、なぜヒロミというタレントが求められ、どういうところが面白がられて、どうやって仕事を増やしているのか、ということについて考えていくことにしたい。

ブランクを感じさせない活躍の秘密

 ヒロミが復活できた第一の理由は、“テレビの第一線から退いてはいたが、芸能界の人間関係から完全に身を引いたわけではない”ということだ。テレビにほとんど出なくなってからも、友人である木梨憲武、藤井フミヤなどとは親交があった。また、妻である松本伊代もタレントとして活動を続けていた。

 いわば、ヒロミ自身がテレビに出ていないとはいえ、芸能界に片足を突っ込んでいる状態に変わりはなかった。こういう状態だったからこそ、タレントとしての勘が鈍らなかった。いきなりテレビに出てもそれなりに対応できるのは、休業中にもきちんと芸能人との付き合いを続けていたからだと思う。いわば、試合に出ていない間にも練習は続けていた、というわけだ。

 第二の理由は、時代がヒロミのようなキャラクターを再び求めるようになった、ということ。これはテレビでも本人の口から何度か語られている。最近、有吉弘行、坂上忍、マツコ・デラックスなど、“毒舌キャラ”と言われる人たちの活躍がめざましい。彼らは、物事の本質を捉えた厳しい毒舌を浴びせかけ、その切れ味が認められてどんどん仕事を増やしてきた。

 ヒロミも、どちらかというとそういうタイプの芸人だ。元暴走族ならではの特攻精神で、どんな相手にもズケズケと乱暴に絡んでいく。暴力的なツッコミをしたり、目上の人にもタメ口を使ったり。そういうヒロミの荒々しい芸風が、ようやく時流に合うようになってきた。有吉、坂上がいけるなら、俺もいけるんじゃないか。ヒロミはそう思ったのだという。

ヒロミは芸人界の中間管理職!?

 また、ヒロミの強みはそういう荒っぽいところだけではない。同時に、目上の人の心をつかむ抜群の社交センスを持ちあわせている。それがあるのは、おそらく彼が元ヤンキーだからだろう。上下関係に厳しい世界で鍛えられ、体を張って危険に身をさらすことに慣れている彼は、そのヤンキー魂を武器にして芸能界を渡り歩いてきた。ビートたけしを「オジさん」と呼び、明石家さんまを「さんちゃん」と呼ぶ。怒られないし失礼だとも思われない絶妙な距離感で人付き合いができるのが、ヒロミの持ち味なのだ。

 そして第三の理由は、そのポジショニングに目新しさが感じられた、ということだ。ヒロミは、“たけし、さんま、タモリ”というお笑いBIG3世代と、有吉、後藤輝基、バナナマンといった、今バラエティの最前線にいる中堅芸人のちょうど中間に位置する存在だ。

 有吉がMCを務める番組にヒロミがゲストで出たとき、有吉に上から目線でグイグイ斬り込んでいく様子が妙に新鮮に感じられたものだ。ヒロミは、上の世代とも親しく付き合い、下の世代には先輩としてズケズケと振る舞える。こういうタイプの芸人はなかなかいない。ヒロミは、お笑い界の中間管理職として突如名乗りを上げたと言えるのだ。

 ヒロミは年齢を重ねて、芸能界以外での人生経験も積んで、ひとまわりもふたまわりも大きくなって帰ってきた。中堅芸人がしのぎを削るサバイバルレースに、大外から突っ込んできた彼のこれからの走りにも期待したい。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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