[やまもといちろうのとっておき時事放談]

小4詐称サイト問題の周辺に“オトナ”不在のなぜ?|やまもといちろうコラム

画像はツイッターより

 やまもといちろうです。出張先の寒いところから戻ってきて、東京の暖かさに感動した次第です。ずっと暮らしていると冷え込みきついなあと感じますけど。

 ところで、先の『なぜ解散』の小4詐称というか成りすましの話。すでに一部では話が出ているとおり、以前からベンチャーや学生起業界隈で微妙な雰囲気を醸し出していた胡散臭い感じのグループが見え隠れしておりましたので、本当に大丈夫なのかなあと思います。こういう事件が起きると、問題意識を整理する格好の機会になりますね。

 小4をわざわざ詐称して、あれだけ綺麗なサイトを作って、党派性の強いメッセージを選挙にぶつけて公開して、民主党関係者その他からの告知支援を受けていました、という段階で炎上待ったなしであります。正直、何してんだお前レベルの話です。

 一方で、『なぜ解散』が問いかけた問題というのは若者の意見としてはまあ真っ当な内容であって、やらかしたことと、いっていた内容は切り分けて受け取ったほうがいいとは思うんですよね。このあたりは、また後日触れたいとは思いますが。

 で、ご承知の通りやらかした青木大和さんは、AO義塾なるAO入試専門の予備校のようなところから慶應義塾法学部に入学され、名前どおり青い野望に満ち溢れていたようです。私自身も慶應法学部出身(付属の慶應義塾高校あがり)で、いまでも年数回呼ばれて交流があるので何となく雰囲気はつかめるんですけれども、そもそも慶應の中には弁論部を中心に「政治家ワナビー」みたいな予備軍の群れがいます。選挙ボランティアを買って出たり、学生秘書みたいな感じで大物政治家の秘書になって、うまくやれば地方議員に、やがては国政に、というアンビシャスを持つ若者はたくさんいるんですよね。

 卒業して20年経って、あのころのことを思い出すと、ちょうど平成維新の会を大前研一さんがやり、新党ブームが持ち上がっての打倒自民党っていう機運が盛り上がっていて、政治に関心のある若者がとても多かったわけです。そして、20年後に政治産業に名を連ねている人は複数あって、世界を飛び回って安全保障を語る第一人者になっている人物もあれば、優秀な奴だったのに反社のレッテルを貼られた上場企業の役員になってしまい、あらぬ疑いがかけられて人生結構棒に振ってる人物もあるわけです。

 そういう環境も容認される慶應義塾において、青木さんがやらかしたことは大変に迷惑ですが、若いうちしかああいう粗相はできないと言われればそうなのでしょう。ただ、青木さんが胸いっぱいに自意識を膨らませて痛いサイトをやったのは若気の至りと解釈をするとしても、周囲にいるオトナは、“何をしているのだ”“もう少し考えろ”というアドバイスぐらいしなかったのか、と思うのであります。

 例えば、NPOの予算を使って女子高校生に焼肉を振舞ったという疑惑がネット内で出てきていますが、関係者に聞く限りどうやら事実のようです。ということは、小4サイトがネタバレして炎上したかどで代表を退任した青木さんは、それよりも前に適切ではない経費の流用を組織の代表として行っていたという別の嫌疑が出て、こっちのほうが余程問題じゃないかと思うわけであります。

自称小学4年生の青木大和さん、NPOの経費で女子高生218人に叙々苑の焼肉弁当を奢っていたと判明wwwww

 さらに、青木さんが慶應義塾に入塾することになったAO義塾については、その主催者である斎木陽平さん(株式会社WE Station)にも飛火しています。かねてから大阪のパチンコホールであるきん商(K-POWER 代表取締役:金山靖昌さん)の名前も出ており、まあ、敢えてその出自や属性については書きませんが、そういうことなのではないかと思われます。

 金山さんはたぶん善意や男気でビジネスコンテストである「K-POWERS BUSINESS BRAIN」をやってこられたのだとは思いますが、そもそもAO入試に対する予備校のような形態は受け入れる大学側もあまりきちんと想定しておらず、ある種の抜け道のような形で慶應義塾や早稲田に学生を送り込む仕組みになってしまっているのが実情のようです。斎木陽平さんの周辺についても、少し聞いた限りでは「熱い男で、何か悪気があってやるような人物ではない」とする一方、「軽はずみなところがあり、AO義塾が少し実績が出て浮かれてしまったところがある」という雰囲気でした。良くも悪くも、この界隈はとてもアグレッシブな人達の集まりだということなのでしょうか。

新たな問題も続々と噴出……そのときオトナは……

 普通であれば、そういう活動をしている個人のバックグラウンドを見て「この人を支援しても大丈夫なのか」という判断はどこかで働くでしょうし、今回は青木さんもかなりこのサイトの立ち上げに気合が入っていて、いろんな人に「サイトを立ち上げるんで、RTで告知してください」と頼んで回っておりました。たぶん、気軽に協力を求め、求められたほうも「青木さんに頼まれたのなら」と安易にRTしてしまったのではないかと思うわけです。

 その中には、大手新聞社の現役記者や、某野党本部にお勤めの政党関係者、企業広報の責任者、著名な身体障害者の方などが混ざっており、彼らがまるで青木さんを支援しているのではないかと誤解されるという巻き込まれ方をしました。サイト制作をしたtehuさんにしても、青木さんの願望や狙いを知って、面白そうだということで手伝った程度の話でありましょう。

 ところが、なぜか安倍晋三首相のアカウントにまで名指しで馬鹿にされるという事態となると、上記のように「そっち系の、実態があるかどうかよく分からないベンチャー投資の話」から「青木さんを入塾させたり小保方問題を起こした裏口同然のAO入試の問題」「経費の使い方が怪しいNPOのガバナンスの問題」「明らかに問題がある詐称サイトに支援をしてしまった脇の甘いオトナたちの問題」などといった、本来であれば善意や志という緩い言葉で何となく暖まっていた界隈の実態が浮き彫りにされ、潮がひくように人垣が散っていくことになるわけです。そりゃあ巻き込まれたくないでしょうからね。

 そして、そういう試みに支援を求められたとき、それが何であるか、どういう問題を起こすかを考えて、青木さんに「そういうことをしてはいけないよ」と言えるオトナが一人もいなかったという。誰か止めてやれよ。そういう話であります。

 この問題が膨れ上がったのも、皮肉なことに「なぜ解散なのか」というところがいまなお国民がはっきり分かっておらず、日本中の頭の上に「?」が乗ったままの選挙で争点がはっきりしないからでしょう。右と左に分かれて騒然と議論になるような選挙戦であれば、この程度の戯言サイトでここまで騒ぎが拡大することはなかったんだろうな、と思うと、もう少しみんな社会保障や世代間格差について考えようよと思います。また、一応は青木さんもそのようなテーマで政治を語ろうとしたという姿勢は良かったんじゃないかと感じるわけですね。やり方は糞でしたが。

 東京も毎朝毎晩は冷え込むようになって来ました。このような案件を通じてしっかり暖をとって、寒い選挙戦を乗り越えてまいりたいと思います。

著者プロフィール

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

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