[「北朝鮮人民生活リポート」デイリーNK東京支局長]

北朝鮮学生のラッキーアイテムは敵国アメリカの1ドル紙幣

反米スローガンを叫ぶ若者も心の中は親米?

 北朝鮮にとってアメリカ合衆国は敵国である。「米帝(ミジェ:米帝国主義者)」と呼び、「不倶戴天の宿敵」として連日の如く公式メディアを総動員して非難している。

 昨年には、いきなり「ワシントンに核爆弾をブチ込む!」と世界がドン引きするようなアピールをしたが、もちろん何も起こらず1か月後には「世紀のハッタリ」であることが判明。いつものことではあるが、まがりなりにも国連に加盟する一国の公営メディアが世界の警察であり世界最強の軍事国家の米国に対して、「核爆弾をブチ込む」とのたまうのは半端な思考ではできないだろう。

 そうかと思えば、今年5月にはオバマを「サル」よばわりして非難。日本でも社会問題になっているヘイトスピーチさながらのお下劣な表現には、さすがのアメリカ合衆国も呆れ果て、激怒しながらも「北朝鮮はある意味において、表現の自由がある」と皮肉ったぐらいだ。

 もちろん、北朝鮮には彼らなりの理屈があって米国を非難しているわけであるが、そんなものが世界に通用するはずもないが、アメリカが嫌いな世界の反米主義者達は内心では喝采の声を挙げていたかもしれない。ただし、これらの「口撃」は、あまり本気で受け止められず、少なくともこの日本においては「ネタ」になりつつある。

 このように反米思想を貫く北朝鮮だが、金正日の3周忌(12月17日)を前に、徐々にエスカレートしつつあるようだ。

 最近では、「山犬の本性は変わることができないように、米帝の幻想はすぐに死ぬ」と言いながら、学生への思想教育を強化していると北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の内部情報筋が伝えている。

 では、この思想教育に、いかほどの効果があるのだろうか。北朝鮮の若者達は本当に米国が嫌いで米国文化を心底憎んでいるのだろうか?

 答えはもちろんノーである。政治的な反米意識はあるかもしれないが、こと文化に限って言えば、相当、受け入れつつある。韓国の映画が流入していることは既に伝えたが、ハリウッド映画もかなり出回っている。

両親がお守りに米ドル紙幣をプレゼント

 金正恩時代のアイコンであるモランボン楽団のお披露目講演(2012年)には、ミッキーマウスやロッキーなど「米帝」を代表するコンテンツが登場。首都・平壌ではミッキーマウスをはじめとするディズニーグッズを目にすることも珍しくないが、最近の学生達は「ラッキーアイテム」として、なんと米1ドル紙幣をこっそり持つというのだ。

 彼らは財布や教科書に挟んだりして、米国の首都ワシントンは初代大統領ジョージ・ワシントンにちなんだ都市名だということもちゃんと知っている。1ドル紙幣に次いで人気なのが「リンカーン」が印刷された5ドル紙幣。リンカーンは、苦労して奴隷を解放した歴史上の英雄として学生達の人気も高い。

 両親達も「未来を開拓して、大きな人になりなさい」という意味を込めて1ドル紙幣や5ドル紙幣を記念にプレゼントする。ここからは筆者の見立てだが、経済的に不安定な北朝鮮ゆえに、「ドル紙幣」は、いざという時の「お守り」の意味合いも含まれているのかもしれない。

 ドル紙幣が若者の間でラッキーアイテムになっている背景には、アメリカに対する敵愾心がもはや通用しなくなっていること。そして北朝鮮経済において既に北朝鮮ウォンの価値がなくなり、ドル通貨が普通に使用され重宝されているからだ。

著者プロフィール

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

(Photo by Roman Harak via Flickr)

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