最近では元TBS・田中みな実アナ、ここ数年でみても元TBS・青木裕子アナ、元日テレ・西尾由佳理アナなど、局アナがフリーに転じる例は少なくない。あまり知られていないが、フリーになる際、細々とした“業界ルール”がある。いまはそれほどでもないが、局アナからフリーに転じて1年間は、もといた局の番組にしか出てはいけないという話も聞く。そんなフリーアナの世界の業界ルールがなぜ存在するのか考えてみたい。
局アナ1人採用のコストはほかの職種よりも高い
一般企業のどんな職種でもそうだと思うがひとり新卒社員を採用、一人前に育て上げるには莫大なコストがかかる。大手企業では一人当たりの新卒者採用コストが約300万円という。大勢の受験生が殺到する女性アナの採用コストは、一人当たり約500万円から1000万円かかっているという人もいる。
たしかにそうかもしれない。最終面接終了後、興信所による身辺調査、採用後はアナウンス技術の研修など、そのコストは放送局のアナ職以外の職種に就く社員たちよりもかかっているはずだ。
局側からみれば、募集から採用後まで、莫大なコストをかけて育てた女性アナがアナウンス技術を身に着けて一人前になり、「さあ、これから」という時期にフリーに転身され、局で身に着けたアナウンススキルで、他局や結婚式の司会、アナウンス講座などの講師業といった“アナウンサーだからこそできる副業”で稼ぐのは「いかがなものか」となるだろう。
ましてやフリーとして成功し、高額のギャラをもらうとなると、元いた局側にとってみれば面白いはずもない。
病院での喉の定期的診療も自腹
しかし、アナたちにも言い分はある。そもそも局アナになるには、大学時代からアナウンススクールに通い、在京全国キー局から、在阪準キー局、地方局、最近では新卒でフリーアナを大勢抱えている事務所への応募などにも結構なコストがかかっている。アナとは“専門職”なのだ。
アナウンススクールの費用は年間、約15万円くらいが相場。2年、3年と通えば、それだけコストもまた嵩む。アナとしての幅を拡げるため、留学したり、英語をはじめとする語学力を磨いたり、何かに役立てるためフィナンシャル・プランナーなどの資格取得や話題性ある特技を身に着けたりもする。これもまたコストがかかる。
局アナに採用され、そのまま局に残ろうとも、フリーに転じようとも、女性アナは見た目が勝負というところもある。体型維持のためのダイエット運動も必須だ。
“商売道具”でもある喉のケアも怠れない。マスク、うがいはもちろんのこと定期的に病院での診察も受ける。これらは局アナでもすべて“自腹”なのだ。
ニュース番組の掛け持ちはNG
番組出演の機会が意外に限られ、収入面でも上限がある局アナでいるよりも、フリーに転じたほうが幅広い仕事に恵まれ、ぐっと収入もアップする。だったらその可能性にチャレンジしたい。フリーに転じるアナの心理とはおよそこんなところだ。
もちろんフリーに転じると、その収入差は大きい。月収にして3桁~4桁万円近く稼ぐアナもいれば、アナとしての収入が月に数万円程度しか稼げないアナもいる。
もっともフリーアナとなっても業界ルールの縛りはある。たとえばニュースアナの場合、ニュース番組は基本、1つの番組にしか出演できない。いくらフリーでも他局をかけもちしてニュースを読むことはありえない。ただしテレビとラジオのニュースの掛け持ちはOKだ。しかしテレビとテレビ、ラジオとラジオの組み合わせはNGだ。
某在京キー局のプロデューサーが、私に放った言葉は今も忘れない。
「安定した局アナを辞めて、フリーになるという厳しさは前もってわかっていたはずだ!」
これは、私がレギュラー番組を降板したときに言われた言葉だ。フリーの厳しさを常に感じながら、業界のルールを守り今日もマイクに向かって喋り続ける。やっぱりアナウンサーの仕事が好きだから。
(文/田中那智美)