「2位が売れる」を打破したウーマン村本の戦略|ラリー遠田コラム

画像はオフィシャルホームページより

 2014年に世間を賑わせていたのは、タレントでもなければスポーツ選手でもない、全く別のジャンルの人たちだった。「ゴーストライター事件」の佐村河内守、「STAP細胞論文不正疑惑」の小保方晴子、「号泣記者会見」の野々村竜太郎など、年に1人出るか出ないかというような強烈なキャラクターを持った人たちが、毎月のように続々登場。テレビに出ることを本業にしているタレントの中で、彼らの勢いに対抗できるような人材はいなかった。

 なぜ彼らはあんなに強烈だったのか? それは、彼らが本気だったからだ。彼らが記者会見に臨む姿には嘘偽りがない。もちろん、それぞれ世間を騒がせるような問題を起こしているし、記者会見の席での発言内容がすべて正しいとは限らない。

 ただ、彼らはみんな、それぞれに真剣だった。佐村河内はトレードマークの長髪とサングラスがないスッピンの状態で会見に臨んで世間をアッと言わせた。小保方はまっすぐなまなざしで「STAP細胞はあります」と力強く宣言した。野々村は人目もはばからずひたすら号泣した。彼らが「ありのまま」の生き様をさらけ出す姿が、良くも悪くも人々に衝撃を与えたのだ。

ありのままを貫いた村本大輔

 そういう意味で、お笑い勢の中で今年最も健闘していたと言えるのは、ウーマンラッシュアワーの村本大輔だ。彼は生身の自分のゲスいところもすべてさらけ出し、それを笑いに変えていくことで時代の寵児となった。

 村本の「ファンに手を出している」という発言は、まさにお笑い界のコロンブスの卵だった。お笑い界の中で、ファンに手を出したことを公言した芸人は村本が初めてではないだろう。この発言ひとつにも村本の並々ならぬ覚悟がうかがえる。

 しかも、村本はツイッターという最新ツールの使い方にも優れていた。ツイッターやブログは、うまく使わないと批判が殺到したりして身を滅ぼすことになる。だが、村本はあえてそれを逆手に取った。自ら火の中に飛び込み、炎上を誘発して、それを利用して知名度を高めていったのだ。

 村本にとって炎上とは、人に知られるための手段でしかない。ネット上の一部の人間にどんなに嫌われても構わない。その外にいる、より多くの人に自分の面白さが伝わればそれでいい。芸能人というしがらみの多い立場で、ここまで開き直ることができる人は、ほかにいない。

 昨今のお笑い業界では、「賞レース番組で優勝しても売れない」とよく言われる。だが、村本はウーマンラッシュアワーとして『THE MANZAI 2013』を制し、そこから一気に売れていった。彼らがそれに成功したのは、漫才自体にキャラクターが出ていたからだ。

 ウーマンラッシュアワーの漫才を見れば、村本という人間をバラエティ番組でどうやって扱えばいいかが分かる。漫才のネタが、そのまま自分たちの取扱説明書になっている。ここには村本の緻密な戦略があった。

 また、村本は「優勝」という肩書きに頼らなかった。「優勝」はあくまでも名刺代わり。テレビに出るためのきっかけでしかない。テレビに出続けるためには、優勝自体ではなく、優勝した自分たちは何者であるのか、ということをはっきりと打ち出さなくてはいけない。そこでゲスいキャラクターをアピールしていったことで、村本は一気に人気をかっさらっていった。

「漫才が面白い人」というだけでは、今の「ネタ番組ゼロ時代」は乗り切れない。テレビで漫才を披露する機会自体がないのだから。村本はその現実をしっかりと受け止めていた。そして、そんな時代に合わせて、次のステージにつながるネタ作りを突き詰めていた。戦略は緻密に、行動は大胆に。お笑い冬の時代に、これほどの大輪の花を咲かせた村本の活躍ぶりは、もっと評価されるべきだ。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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