満を持して朝日新聞元記者の植村隆氏が反撃に出た。
植村氏は、1月9日、2014年2月に、
「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」
といったタイトルの記事を書いた『週刊文春』と、慰安婦問題について執筆することが多く、同誌にコメントも出している西岡力・東京基督教大学教授に計1650万円の損害賠償等を求める訴訟を起こした。
「順次、訴える」他誌にも飛び火は必至か
2014年、朝日新聞は慰安婦問題に大きく揺れた。8月5日には、強制連行を朝日新聞に証言した吉田清治氏の証言を虚偽と断定、これを取り消したことを受けて、12月、第三者委員会が報告書を出した。
このなかで、1991年に「元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く」という見出しの植村氏の記事について、
「事実をねじ曲げた記事が作成されたとはいえない」
と、結論づけた。
植村氏が、文春記事や西岡発言に対して、最も反応したのは「ねつ造」という言葉である。報告書は、
「強制的に連行されたという印象を与え、安易かつ不用意な記載があった」
と、注記はつけたものの、「捏造」は否定。その“お墨付”が戦いに踏み切らせた。
単なる名誉毀損訴訟ではないことは、170名もの大弁護団がついていることでもわかる。
訴状には、元日弁連会長の宇都宮健児氏や社民党の福島瑞穂・前党首の事実婚のパートナーである海渡雄一弁護士らが名を連ね、植村氏の記者会見に同席した神原元弁護士は、
「(捏造のレッテルを張った)他の人も、順次訴える」
と、語っている。
一言でいえば「人権派」ということになるが、それだけ弁護士界の一部の憂慮は深かった。なにしろ、2014年、朝日新聞をバッシングする報道は、全マスコミをあげて、といっていい状態だった。
しかも、マスコミに連動したネットのブログやWeb雑誌は、輪をかけて過激に報道。植村氏と家族の名誉を毀損、17歳の長女の写真がネット上にさらされ、
「売国奴の娘」
「自殺に追い込む」
などと中傷する者もいて、植村家の人権は大きく傷付けられた。
ミスリードと人権侵害は別問題
弁護団は、植村氏の記事を含む一連の朝日報道が、
「捏造された吉田証言も含めて、従軍慰安婦報道をミスリードしたかどうか」 という問題と、植村バッシングを別問題と捉えている。
マスコミとネットの連動は、時間とともに容赦ないほど激しく、それが加速していく危険性に満ちていることを、私自身、報道現場にいて、常に感じる。
植村批判報道にそれはなかったか。
弁護団の言葉通りなら、今度、マスコミ、Web雑誌、評論家などが、法廷に立たされる。報道するものは、自戒を込めて、訴訟の行方を見守るしかない。
- 伊藤博敏
- ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある