危険ドラッグ体験者の証言「正気を失い、運ばれた病院で大騒動に」

マジックマッシュルームは日本では2002年から法律で規制されている

 昨年から今年にかけて世間を賑わせている危険ドラッグ。その怖さはさまざまな報道で周知されているが、いまだ密売する業者もいるように、一般人への供給が完全に絶たれたわけではない。

 そんな危険ドラッグに軽い気持ちで手を出すとどうなるのか。筆者が、過去の自分の体験をもとに、安易にドラッグに手を出すことの馬鹿馬鹿しさと恐ろしさをレポートしたいと思う。

15年前、当時合法だったマジックマッシュルームを入手

 あれは今から15年ほど前。ある週末の午後、当時はまだ合法(というか、単に「非合法」とはされていなかっただけ)だったマジックマッシュルームを歌舞伎町で購入し、喜び勇んで勤務先のオフィスへ行った。従業員数人ほどの小さな会社で、土曜日のため私(当時35歳)一人しか出勤しておらず、途中で購入した風俗雑誌を手に「どのコにしようかな~」と人生初の“キメセク”にワクワクしながら、マジックマッシュを1袋全部食べ尽くした。

 しかし、待てど暮らせど効果が現れない。そこで、隣の席だった女性社員の机の引き出しを開け、取り出した除光液のニオイを嗅いだ。あのシンナー臭が“きっかけ”になると踏んだのだ。

 次の瞬間、ガツン!と脳天に電気が走った。体内の血が脳に逆流している、そんな感覚を覚えた数分後、パソコンに目をやると、パソコン画面のドットが妙にはっきり見える。思えば、その時すでに瞳孔が開いていたようだ。

「やべ、風俗どころじゃねぇ!」と思いながらも、次の瞬間「うおおおお、ヤリてぇ!」という思いに変わる。正常な感覚が訪れても、すぐにエロい妄想に替わるのだ。

 しばらくすると、ものすごい吐き気に見舞われた。さすがに正気ではいられなくなり、知り合いのドラッグ・マニアに電話をした。

「マッシュ食べすぎちまった、どうしたらいい?」

「水を飲め、飲んで吐き出せ!」

 吐き気は高まるが、肝心のマッシュがまるで出てこない。我慢できずに友人に再度電話すると「マッシュじゃ捕まらないから、救急車を呼べ!」。

 数分後、ピーポーピーポーのサイレンとともに、救急隊員と警察官がやってきた。警察の制服を見た瞬間、さすがに一瞬正気になったが、「どこで買ったの?」「しょうがねぇな、逮捕できないしな。病院に行け」で事情聴取は終わり。

 目がテンパった中年が担架に乗せられる姿を、野次馬たちがヤバそうな目で見ていたことを覚えている。

救急車に乗せられ、病院でも大迷惑をかける

 救急車に乗せられ、着いた先は某有名病院。朦朧としながら事情を説明すると、看護師にズボンとパンツを脱がされた。まるで赤ちゃんのように縮こまったペニスの先に管を通された。痛みを感じないのだから、相当キマっていたようだ。

 この時には正常な意識はすっかり姿を隠しており、看護師を「ナース姿の風俗嬢」と思い込んで「ねえ、しゃぶって、お願い!」と何度も何度も哀願していた。キマったアホ中年(しかもM気質)だけに、相手にするのもイヤだったことだろう。しつこい私に呆れたハタチぐらいの看護師は「うっさいな!」と蔑んだ目で私を睨み「ったく、いい年してバカじゃないの!」と怒鳴った。当時、危険ドラッグでテンパるなど10代の所業だったのだ。

 彼女のお尻を触ると、頬にモミジのような手形の跡がついた。直後、医師がやってきて連絡先を聞かれ、とっさに実家の電話番号を口にした。嫁さんに知られたら大変、という意識だけはもっていたのだ。

 1時間くらいしただろうか。見覚えのある顔が目の前にあった。10歳下の弟である。

「てめー、この野郎! なにやってやがんだ!」――両手を縛られたまま、上半身は裸、下半身はオムツという情けない兄の姿を見て、弟が鬼のような形相をしている。

「ご、ご、ごめんなちゃい。ユキ(嫁)には黙ってて」

「夜2時に電話が鳴るから何事かと思ったぞ! オフクロが出なかったからいいものの、オマエ、ホント、殺すぞ!」

 私は、生まれて初めて弟に殴られた。その衝撃もキマりきったM男には心地よく、弟の目の前で看護師さんに「しゃぶってぇぇぇ!」とお願いする始末。快楽を感じると、なぜかオシッコが出て「うおああああん」と声が漏れてしまう。

 あまりに恥ずかしくなったのだろう、弟は病室から出て行った。

 そういえば、正気に戻ったタイミングで聞いた、看護師のこんな言葉を覚えている。

「今日運ばれてきた山田さんの、切断した足だけど、ちゃんと残しておいてね。焼却して骨壺に入れるそうだから。亡くなった後、遺骨と一緒に入れるそうよ」

 切られた腕や足は、どうやら病院では処分できないようだ。

 それから4時間、いや5時間ほどが経っただろうか。すっかり正気になった私は、ペニスの先に入った管を自分で引っ張った。痛かった。看護師から上から見下ろすような目で「正気になったみたいね」と声をかけられた。「はい、す、すいませんでした……」と平身低頭で病院を後にした。

現在は完全に違法。ダメ、ゼッタイ!

 マジックマッシュルームとは、幻覚作用を起こすきのこの俗称である。麻薬として指定されているサイロシビンやサイロシンを含有する、いわゆる「毒きのこ」の一種であり、おもに乾燥させて小分けにしたものが流通し、乱用されている。

 筆者の体験した15年前こそ合法(というか、脱法)ではあったが、13年前の2002年6月の「麻薬、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」改定によりマジックマッシュルームも麻薬原料植物として指定され、現在は完全に違法である。

 違法となった今でも、幻覚作用などを求めて乱用する人たちが少なからずいるようだ。実際、マジックマッシュルームによる中毒や事故もたびたび報道されており、筆者は事なきを得たものの、なかには死亡した例もある。

「ナチュラルな薬物」などと言われることもあるが、覚せい剤と同様に、恐ろしい結果を招く危険性のある禁止薬物であることを忘れてはいけない。

(文/稲垣翼)

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