「高齢者は攻略しやすい」被害が相次ぐ投資詐欺の陰湿手口

「老後マネー」を狙った詐欺犯罪が年々増加している

 1月21日、高齢者ばかりを狙い架空の株取引を持ちかけ、全国の男女19人から約1800万円を騙し取っていた容疑で男6人が警視庁に逮捕された。

 主犯格の男(65歳)らは、兵庫県の94歳男性、岩手県の88歳女性らに対し「新規上場株を独自のルートで手に入れて取り扱っている。上場後は必ず値上がりするので間違いなく儲かる」などと勧誘していたという。

 こうした、架空の株取引をデッチ上げて詐欺行為を働く事件は後を絶たない。今回明らかになった事件の規模は比較的小さいほうで、2009年の11月には、1都2府23県の315人に未公開株を売りつけて約8億9000万円もの金を騙し取った容疑で、計12人の男が警視庁に逮捕されている。

高齢者は「攻略しやすい」存在

 この2009年の事件で被害に遭った男性に話を聞くことができた。一人暮らしで年金生活を送る70代男性。最初に投資案内のパンフレットを自宅へ送りつけられ、その後に度重なる電話勧誘を受けたという。

「電話で、『太陽光発電で年々利益が上がっている。来年の夏には東証2部に上場する。相当いい値がつくはずだから必ず儲かります。安心してください』と言われた。最初は警戒していたが、改めて見るとパンフレットもしっかりしたものだったし、連日の勧誘を受けるうちに信用してしまった。しかも相手は、株の営業だけではなく、身の上話や雑談にも応じてくれて、いつの間にか気持ちが傾いてしまって……」

 そうして、この男性は800株・2640万円を払い込んでしまったという。

 直接顔を合わせたこともない相手。しかも大きな金銭が絡むにもかかわらず、そんなに簡単に信用してしまえるものなのか。この疑問に対して、独居老人の生活を支援する活動を行っている、あるNPO団体の幹部がこう説明する。

「一人暮らしの高齢者の孤独感、寂しさは想像を絶するものです。家族や友人とも疎遠になり、地域との交流もなく、外に出れば楽しげな若い世代を目にして余計に孤独感が深まる。社会での役割も減り、ときには邪険に扱われ、自尊心は著しく低下します。そんな毎日に、いっときでも自分を認めて受け入れ、相手をしてくれるような存在が現れることは、カラカラに乾いた砂漠に水が与えられるようなものです」

 高齢者を狙う多くの詐欺は、そんな心理に巧みにつけ込むのだという。木嶋佳苗や筧千代子らの婚活殺人事件などはその最たるものだ。

「もちろん、若い世代よりもお金を貯めこんでいるという部分はある。しかしそれ以上に、詐欺師たちにとって高齢者は、少々語弊がありますが“攻略がしやすい”存在なんです」(前出・NPO幹部)

「怪しい話を信じて、騙されるほうが馬鹿だ」と笑うのは簡単だ。しかし、自分に無関係な話として笑うだけでは、この手の詐欺は決して根絶できない。

「若いうちは『自分は絶対に大丈夫』と思うでしょうが、それは慢心にすぎません。また、『自分の親はしっかりしているから心配ない』という過信もいけません。現役時代に社会的立場の高かった人ほど、老後に『自分の価値が低下した』と感じ、不全感を抱えやすい傾向があります」(前出・NPO幹部)

 有り体だが、高齢期の親がいるなら普段からコミュニケーションを密にとり、些細なことでも“報告・連絡・相談”する意識をもつこと以外に被害防止の途はない。

エコ、医療、東京五輪関連の詐欺が急増

 株取引に詳しい弁護士が警鐘を鳴らす。

「株は通常、証券会社が間に立って買い手を募集する。自ら、あるいはそれ以外の第三者が不特定多数に話を持ちかけることはあり得ません」

 老後マネーを狙った投資詐欺の相談は、ここ5年ほどで急増しているという。

「近年のトレンドとしては、太陽光発電や新エネルギーなど“エコ”を売りにした銘柄、それに、iPS細胞など最新医療の技術化・実用化を謳う銘柄で騙そうとするケースが目立つ。また、東京オリンピックに関連づけて『必ず株価が上がる。今こそ絶好のタイミングと言葉巧みに騙るケースも多くなっています」(前出・弁護士)

 ほとんどのケースで、ターゲットとなるのは65歳以上の高齢者。過去に株取引をしたことのある人が名簿化されて出回っているほか、金・プラチナや宝石、健康食品などの購入者リストから“カモ”がピックアップされることも多いようだ。生年月日のほか、「独居」「夫の在宅が多い」「話し好き」「押しに弱い」といった細かな情報が書き込まれた名簿もあるという。

「もっともカネを持っている世代」といわれる団塊世代がどんどん老年化していき、今後も高齢者を狙った詐欺はまだまだ発生するだろう。新手の手口も常に注視していかねばならない。

(取材・文/稲垣 翼)

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