神社と聞くとまずご利益を期待してしまうのがこの世の常ですが、その内容も実にさまざま。以前、女性向けのパワースポット本の監修に携わったことがありましたが、その時もご利益に対する要求はものすごく細かったことを記憶しています。
いわゆる一般的に人気が高いものとして上げられるのが、やはり「商売繁盛」と「良縁祈願」。中でも「商売繁盛」に対する期待は古く、かつては、「五穀豊穣」として求められてきたものが、産業構造の転換に伴い、「商売繁盛」へと変化していきました。そう考えるともっとも古いご利益はこの「商売繁盛」の中に求められるのかもしれませんが、「良縁祈願」は逆にここ数年で著しく台頭してきたご利益と言えるのかもしれません。
実際、出雲大社が人気を博したのもまさにこのご利益に対する期待する声を反映したものと言えるでしょうし、島根県の空の玄関として利用される空港もまさに「出雲縁結び空港」とまで謳っております(笑)。まぁ、何時の世も素敵なご縁にあやかりたいとの想いはあるのでしょうが、今の人気ぶりは、ある意味、男性の草食化によって、ご縁が恵まれにくくなってきている結果を反映しているのかもしれません。
そんな中で、一際、世情を反映したご利益として、実は多くの女性たちから求められているご利益に「縁切り」というものがあります。本来は、病気などの悪い状況・環境を断つという意味に求められるのですが、その環境は実にパーソナルな分野に及び始めております。事実、私もいくつかの「縁切り」神社に足を運びましたが、そこに掛けられている絵馬には、女性の悲痛にも似た叫びを数多く見ることができます。
例えば、「会社同期の○○、早く辞めろ!」といったものから、「○○さんと○○さん、早く別れて!」といった恋愛絡みのものまで。それが、相手の実名のみならず、携帯番号まで記載されるものまであるのですからその想いの深さたるや相当ものです。基本、私自身にスピリチュアルな感性などというものはまったくありませんが、それでも大量に掛けられた私怨に満ちた絵馬の数々を見ていると自然と身震いを覚えます(笑)。
また、この縁切りとは違うものの同じく、女性の強い想いを感じられる例として上げられるのが、熊本県熊本市に鎮座する弓削神宮。こちらは、国家転覆をはかろうとした疑いがかけられている弓削道鏡(ゆげのどうきょう)に関わる神社なのですが、地元ではそんな歴史的な背景よりも、夫婦円満や子授かりの神社として知られています。
中でも、同社では、道鏡の巨根伝説を仰いだのか、境内の至るところに男根を模したオブジェを配置しており、それを見るだけでも、他の神社とはちょっと違う雰囲気を感じることができます。そんな中で一際立っているご利益が「浮気封じ」と呼ばれるものです。こちらでは、実際にその想いを懸けるものとして、男根に模した木に五寸釘を打って奉納します。
その奉納物が山盛りになっているのを見るだけでも、その場に訪れた男性諸君はみな戦慄を覚えることでしょう。ある意味、それだけで「浮気」に対する考えが萎縮すると思えば、効果はあるのかもしれません。
このようにご利益とは一言で言いながらも、その姿・形は時代に応じてさまざまに変化をしていきます。ただし、その傾向としては、やはりより個人主義化しているというのはまさに時代に負うところと言えるのでしょうか。ただし、出来ることなら、神社は、少しでも前向きな願いに溢れる場所であって欲しいとは思うのですがいかがでしょうか。少なくとも、私も絵馬に携帯番号まで書かれるようにはなりたくないとは思いますが(笑)。
著者プロフィール
一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター
東條英利
日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、一般社団法人国際教養振興協会を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。
公式サイト/東條英利 公式サイト