後藤さん殺害事件を中国政府が政治利用…ウイグル族への弾圧懸念高まる

中国でも“政治利用”されるイスラム国

 中国の習近平政権が、イスラム教スンニ派過激組織「ISIL」(イスラム国)の日本人人質殺害事件を政治利用する懸念が高まっている。

 少数民族「ウイグル族」の一部の若者にISILに参加する動きがあることに目を付け、「新疆ウイグル自治区や宗教への弾圧を強化しようとする恐れがある」(専門家)というのだ。

複数のウイグル族がISILに参加

 中国共産党の機関紙「人民日報」国際版、「環球時報」は2月6日までにISILがここ半年間で処刑した外国人戦闘員ら120人の中に、ウイグル族の中国人3人が含まれていたと報じた。

 情報筋によると、1人はトルコからシリアに入国し、ISILに合流。だが、その実態に失望し、トルコの大学に進もうとしたところを拘束され、昨年9月に処刑されたのだという。

 遠く離れた異国の地で命を落としたウイグル族の若者。イスラム教を信奉するウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区には、彼のような足跡を辿る者が少なくない。

「中国西南部にある雲南省の国境地域には、東南アジア経由でISILが支配するシリア、トルコに渡るルートができている。すでに複数のウイグル族が現地に渡り、戦闘に参加しており中国当局が警戒を強めている」(全国紙外信部記者)

「ホームグロウン・テロ」の危険を指摘も…

 昨年9月、フリージャーナリスト、常岡浩介氏(45)がISILの支配地域に潜入取材した際にも、ウイグル族の20代の若者と接触しており、その模様はテレビニュースでも報じられていた。

 中国当局は、こうした動きを受け、国外のテロ活動に共鳴・参加した者が自国に戻ってテロを引き起こす「ホームグロウン・テロ」の危険を指摘。国内での治安態勢の強化を目指す構えを示している。

 一見、“反ISIL”で結束する国際社会と足並みを揃えるかのような中国当局の動きだが、その背景には習政権のある思惑も透けて見える。

「どうも、習政権はこの機会を利用してウイグル族への“負のイメージ”を広め、弾圧を一層強化しようとしているようだ。さらに弾圧の対象をウイグル族だけでなく、宗教にまで向けようとしている」(同前)

ウイグル族という脅威を取り除く口実に

 腐敗官僚の取り締まり強化など、大規模な「反腐敗運動」を展開し、国民の人気取りに躍起となっている習近平国家主席。だが、真に狙うのはより強固な独裁体制の確立だ。

 そのためには政権にダメージを与えかねない不穏分子を一掃する必要がある。習氏は、先のウイグル族と宗教を、自身の野望を達成するための障壁として捉えている可能性が高い。

「習政権は、ウイグル族の蜂起を恐れて、民族浄化を急速に進めている。伝統文化の継承を禁じ、若いウイグル族女性と漢族との交配を進めてウイグル民族そのものを根絶やしにしようとしている。今回の日本人殺害事件をその追い風にしようとする危険がある」(中国専門家)

 宗教への弾圧も苛烈を極めている。

「これまで黙認していたキリスト教信者に対しても厳しい抑圧政策をとりはじめた。教会はもちろん、信者同士の小さなコミュニティーにまで公安が目を光らせるようになった。毛沢東時代をほうふつとさせる純化路線に走り、一党独裁をより強固なものにしようとしている」(同前)

 自身の権益を守るためには、残虐なテロ集団までも利用する──。その狡猾さには驚きを禁じ得ない。

(取材・文/浅間三蔵)

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