アベノミクスのジレンマ「日中関係は悪化したほうがいい」

安倍晋三公式サイトより

 アベノミクス3本の矢のうち、金融緩和・財政出動の2本の矢は放たれた。金融緩和による円安誘導は、大企業の支出拡大を後押しすると言われていた。事実、大企業の業績は回復基調にある。昨春、大企業は賃上げを実行。しかし、物価の上昇には追いつかず、庶民に景況感は広がっていない。

 第3の矢である規制緩和・成長戦略も、あまりスムーズに進んでいない。アベノミクスに手詰まり感が広がりつつある現在、成長戦略で実を結びつつあるのは訪日外国人観光客の誘致ぐらいだろう。

 2014年の訪日外国人観光客は過去最高の1300万人超を記録。その内訳は台湾が282万人、韓国が275万人、中国が240万人となっている。訪日外国人観光客の多くは中国・韓国が占めている。安倍総理もこうした状況を認識しているようで、

「秋葉原では、1個5万円10万円もする高級炊飯器が飛ぶように売れている。一人で3個も4個も買っていく中国人がたくさんいる」

 と街頭演説で強調している。

 訪日外国人観光客が日本国内で買い物や飲食をしてくれれば、日本の景気も良くなる。日本の人口が減少を続けている中、外需拡大は政府の至上命題。本来なら、訪日外国人観光客の増加は、日本経済の活性化につながるのだから、安倍政権の支持者も喜ぶところだ。

中国・韓国に理解を示せば即反日

 しかし、安倍総理を支持する人たちは放日外国人観光客の増加を素直に喜んでいない。なぜなら、外需拡大を牽引しているのが中韓の観光客だからだ。

 民主党政権末期から、日中韓の関係は良好な状態ではなかった。第二次安倍政権が発足すると日中関係・日韓関係はさらに冷え込む。昨年4月に安倍晋三総理大臣はオバマ大統領の仲介で韓国の朴槿恵大統領と会談したが、両者の関係はギクシャクしたままだった。それは昨年11月に実現した習近平国家主席との会談も同じだった。習主席は目を合わせようともしなかった。

 膠着状態のつづく日中関係・日韓関係を好転させようとしている議員が自民党内にいないわけではない。今年3月に自民党の谷垣禎一幹事長が訪中を発表し、二階俊博総務会長も訪韓を予定している。しかし、そうした日中関係・日韓関係を改善しようとする動きに対して、安倍晋三総理大臣を熱狂的に支持する人たちは微妙な心持ちに違いない。

 昨年の衆院選最終日、安倍総理は最後の街頭演説場所に秋葉原駅を選んだ。安倍総理の前座として登場した丸川珠代議員は「日中関係を悪化させたのは、尖閣諸島を国有化した民主党政権だ」と民主党を批判。従来、自民党の街頭演説で野党第一党の民主党を批判すると、集まったギャラリーのボルテージは上がる。ところが、この発言には冷めたムードが漂った。安倍総理を応援する人たちからは「日中関係なんて、むしろ悪化した方がいい」という声が漏れたのである。

 安倍総理の演説後には、もっと凄惨な光景が繰り広げられている。演説後、支持者は取材に来ていた報道陣に対して「NHKは売国!」「反日の朝日新聞は帰れ!」といった罵声を浴びせたのである。あるテレビ関係者は、その様子をこう語る。

「うちの局は自民党寄りだと言われますが、反原発や普天間基地移設反対の取材に行っても、あれほどの罵声を浴びることはありません。あの光景を見たら、普通の有権者は恐怖を感じてしまうでしょう。それは安倍政権にとってもマイナスなんじゃないですかね」

 中国・韓国に理解を示す報道は、即反日・売国と受け止められてしまう。支持者がこんな状態では、日中関係・日韓関係の改善は難しい。日中関係・日韓関係を改善しなければ、中国人・韓国人観光客は減少するだろう。中国人・韓国人観光客による経済効果は10兆円を超えると試算されている。それだけに、日中関係・日韓関係は日本の景気にも多大な影響を及ぼすことになるだろう。

 支持者と成長戦略、板ばさみの安倍総理は中国・韓国にどう向き合うのか?今後の動向が注目される。 

(文/小川裕夫)

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