「R-1ぐらんぷり2015」じゅんいちダビッドソンはなぜ優勝できたのか

画像はオフィシャルホームページより

 2月10日、ピン芸日本一を決める「R-1ぐらんぷり2015」の決勝が行われた。エントリー総数3751人の頂点に立ったのはじゅんいちダビッドソン。サッカー日本代表の本田圭佑のものまねで知られる彼が、二度目の決勝進出で栄冠を手にした。

 じゅんいちダビッドソンが優勝することができたのは、決勝で演じた2本のネタがいずれも高く評価されたからだ。この2本のネタは、両方とも本田のものまねキャラを使ってはいるが、そこで生み出されている笑いの質は微妙に異なる。それらを読み解く鍵は昨年のR-1決勝にある。

 2014年のR-1でも、じゅんいちダビッドソンは決勝に進んでいる。このときに彼が披露したのは、本田の無回転シュートにちなんだ「無回転なぞかけ」というネタ。本田に扮したじゅんいちダビッドソンが、ひねっていない(回転のかかっていない)なぞかけをやっていくというもの。

 例えば、「自分のゴールで試合に勝つ」とかけて「晩ご飯がハンバーグ」ととく。そのこころは「どっちも嬉しい」。なぞかけなのにひねりを加えないネタを演じて、「全然回転かかってないでしょ!」と自信満々に言ってのけるのだ。

 ただ、このネタのポイントはここから先の展開にある。このパターンだけで終わらず、少し着地点をずらしたり、逆にうまいことを言ったりしながら、どんどん受け手の読みを狂わせていくのだ。それはまさに、ボールに回転がかかっていないからこそ、空気抵抗を強く受けてボールがどこに飛ぶか分からない無回転シュートと同じ原理。ネタの回転数を自在に操ることで、予想を裏切り続けて、どんどん大きな笑いを生み出していくのだ。昨年のR-1では惜しくも敗れてしまったが、このネタが翌年への伏線になっていた。

「無回転なぞかけ」というネタを作ることで、じゅんいちダビッドソンは「ネタの回転数を変える」という重要なテクニックを身につけた。笑いの作り方には、予想される定番のパターンをやる「ベタ」もあれば、期待されたことをあえてやらない「スカシ」もある。観客の思うことを予想しながら、それを裏切ったり、あえて合わせていったり、臨機応変にネタの流れを変えていく。これがうまくできれば、どんな状況からでも笑いを生み出すことができるはず。

掟破りの新ネタでみせた笑いのテクニック

 そんなじゅんいちダビッドソンの技が光っていたのが、今回の1本目で披露したネタだった。本田が自信たっぷりにショートコントを演じて、それを自ら解説していく。コントを自分で解説するというのがそもそも掟破りである上に、解説の目の付けどころがいちいち変わっている。観客はネタの途中で何度も予想を裏切られ、いつのまにか彼の世界に引きずり込まれてしまう。

 このネタは、普段お笑いを見慣れている人ほどより深く楽しめる可能性が高い。コントを自分で解説したりして、お笑いのセオリーを裏切るところに面白さがあるからだ。実際、このネタは、熱心なお笑いファンが客席を埋め尽くす準決勝の舞台ではもっと大きな笑いを起こしていた。いわば、1本目のネタはどちらかといえば玄人好みのネタだった。

 そこで、じゅんいちダビッドソンが満を持して2本目に持ってきたのは、スーパーでクレームの電話を受ける本田のネタ。本田のものまねキャラを前面に押し出した、分かりやすくてポップなネタだ。1本目のネタを演じたことで、本田のキャラクターはすでに見る人には伝わっている。そこで、それを土台にして「もしも本田圭佑が○○だったら……」という設定のものまねコントをやることにしたのだろう。これは誰にでも伝わりやすく、一般ウケするタイプのネタだ。ここできっちり笑いを取ったことで勝負が決まった。

 ゆりやんレトリィバァ、マツモトクラブというファイナルに進んだ残り2人もかなり健闘はしていたものの、彼らはいずれも1本目のネタの方が出来が良かったように思われる。一方、じゅんいちダビッドソンは、1本目で通好みの技巧を存分に見せつけて、2本目で大衆向けの分かりやすいネタを演じた。2本のネタで緩急をつけて、幅広い芸を持っていることをアピールできたのが勝因だろう。

 激戦を制して優勝を手にした「持ってる」男・じゅんいちダビッドソンが本当に持っていたのは、観客の心を自在に操る巧みなテクニックだった。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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